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安倍首相が国際法曹協会で「法の支配」スピーチ――参加弁護士からは批判の声

2014年11月18日11:00AM

安倍晋三首相は10月19日、国際法曹協会(IBA)が東京で開催した年次大会に招かれ、その場で「法の支配」について演説した。

憲法が禁じる集団的自衛権の行使を閣議決定した安倍首相が「法の支配」でスピーチという外形的事実だけでもブラックジョークだが、案の定、弁護士らからは「自国の法の根本である『憲法』や『法の支配』がなんたるかわかっているのか」と批判の声が上がっている。

IBAは1947年に設立され、150カ国以上の約4万5000人(2012年時点)の弁護士会及び個人の弁護士らが加盟する世界最大の法曹団体だ。今年は19日から24日まで東京で年次大会が開かれた。

安倍首相は演説で、「法の支配」は西洋を起源とする用語だが、アジアでも同様の考えがあるとし、吉田松陰や聖徳太子の「十七条憲法」を持ち出した。そして「法と正義の支配する国際社会を守ることが、日本の国益」であり、法の支配の実現に向け外交を展開する、とまで言ってのけた。

今回のIBA年次大会に参加した日本弁護士連合会の公害環境委員会エネルギー・原子力部会長などを務める笠原一浩弁護士と、安倍首相の演説についてやり取りをした。

――安倍首相は開会式の演説の中で聖徳太子の十七条憲法を持ち出しましたが、ご感想は?

失笑です。安倍首相や自民党の憲法観は、聖徳太子の十七条憲法の水準にすら達していないと言わざるをえないからです。

――どういうことでしょうか。

聖徳太子の十七条憲法は「役人に対する規制としての法規」です。しかし、自民党の憲法草案では「憲法においても国民の義務を導入しよう」との議論さえあるからです。

――聖徳太子の十七条憲法についてもう少し細かくみていただけますか。

一条の書き出し「和をもって貴しとな」るや第二条などは、国の政治を動かす役人が人々を虐げないようにという戒めが仏教思想などに基づき書かれています。それが直ちに立憲主義の根拠というわけではありませんが。

立憲主義は、国家権力を憲法によって規制してその暴走を防ぎ、人権を保障することを目指した思想です。個人は等しく尊重されるべきであるという概念を基礎としたのです。

――国民ではなく、役人が何をしなければならないかが書かれている点で「憲法」ですね。

第十条は、権力の行使者が絶対的に正しいわけではない。民衆の意見が自分と違ったとしても、間違っているわけではない。役人も民衆もひとしく凡夫であると。

――安倍首相は『法の支配』の考え方は普遍的だとし、「人類愛によって結ばれ、助け合う人間が、合意によって作っていく社会の道徳や規範。それが法です」と演説しました。これを聴いた他の弁護士からは、「『法の支配』は、人による支配や恣意的支配を廃し、公権力の恣意性をコントロールするものとして中世以降のイギリスで発展したものだ。しかし、安倍首相の言う『合意』では、単に自分の思いが法になりかねない。『法の支配』の概念を消す恣意的な使い方だとの批判も上がっています。

その通りです。さらに言えば、聖徳太子の十七条憲法は、日本で最初に「憲法」の名が付されましたが、過去の歴史においても国民一般を規制した鎌倉時代の「御成敗式目」等に対しては「憲法」の名は付されていません。

――安倍首相がリードする自民党の憲法草案は憲法に値するのか、という疑問が改めてわいてきます。自分が率いる内閣の閣議だけで9条の解釈改憲を行ない、いまだかつてない国会デモが巻き起こっている原発再稼働に向かい、国会においてさえ、特定多数で押し切り、特定秘密保護法を制定し、それを実施して言論や思想を自民党内の「合意」で進めようとしています。

安倍首相の憲法観は、聖徳太子の十七条憲法の水準以下だと言わざるをえません。

(まさの あつこ・ジャーナリスト、11月7日号)

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