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「道徳の教科化」答申で文科省は2018年度実施を表明――考え方や行動まで評価対象に

2014年11月12日5:08PM

文部科学省・中央教育審議会(中教審)は、10月21日、道徳を「特別の教科」として正規の教科に格上げする答申を行なった。これを受けて文科省は2018年度から実施するとしている。

そもそも「道徳の教科化」は第一次安倍政権の「教育再生」政策の「目玉」の一つだった。これが政治課題として急浮上したのは、11年、滋賀県大津市の中学生が自殺した事件である。13年1月24日に設置された首相直属の「教育再生実行会議」は、同年2月に「いじめ問題等への対応について(第一次提言)」を出し、いじめをなくすために道徳の教科化が必要だと主張した。それを受けて下村博文文科相は、同年3月に「道徳教育の充実に関する懇談会」を設置。その後、異例の早さで手続きが進められた。中教審の道徳教育専門部会が今年9月19日にまとめた案を、中教審は同月末の総会で大筋了承し、10月の総会で一部修正して答申を出している。

「答申」は、「道徳教育の使命」は「人格の基盤」となる「道徳性」を育てることにあり、道徳教育は「教育の中核をなすべきもの」としている。これにもとづいて、(1)道徳を「特別な教科 道徳」(仮称)として正規の教科に格上げして道徳教育を義務化する、(2)「特別な教科 道徳」を「要」として学校の教育活動全体を通じて道徳教育をより確実に展開するよう教育課程を「改善」する、(3)国が検定基準を定める検定教科書を導入する、(4)数値での評価はしないが、子どもの「作文やノート、質問紙、発言や行動の観察」などをもとに評価を行ない「道徳教育の成果として行動面に表れたものを評価する」、(5)授業は原則学級担任が担当する、(6)授業時数は当面週1コマ(年間35時間)、(7)道徳教育推進リーダー教師を地域に設置する、(8)家庭や地域と連携して行なう――などとした。さらに、現在、道徳の時間がない幼稚園や高等学校、特別支援学校でも道徳教育を「充実」することも提言している。

紙幅がないので「答申」の問題点として、次の二点を指摘したい。

第一次安倍政権の時、「道徳の教科化」を諮問された中教審は道徳の教科化は「実現困難」としたが、その主要な理由の一つが評価の問題だった。正規の教科にすれば当然「評価」が必要になるが、道徳を5段階などの数値で評価するのはなじまない、ということだった。そこで、今回の「答申」は、数値による評価はしないとした。

だが一方で、子どもの考え方から行動まで、全面的に評価の対象としている。これは、ある意味では数値による評価以上に重大な問題を孕む。子どもは考え方や意見、行動など全人格を評価されるので、「良い評価」を得るために、発言・行動したりするようになる。評価される子どもも評価する教員も、大変な負担を強いられることになる。子どもの心と身体は深刻な分裂に追い込まれ、今よりストレスをためこむ。そのストレスが「いじめ」など「問題行動」をいっそう増加させるのではないかと危惧されるのだ。前提として国連「子どもの権利条約」違反でもある。

道徳の検定教科書の発行も重大である。国家が定めた特定の徳目(価値)を検定基準として教科書を作成し、それだけが唯一正しい「日本人の道徳」だとして「愛国心」をはじめとした特定の価値観を教え込むことになる。これは、憲法が定める「思想・良心の自由」を踏みにじり、国家が定める「愛国心」「公共の精神」などの徳目(価値観)を子どもたちに押しつけるものである。

安倍「教育再生」政策の真の狙いは、グローバル企業のための「人材」と「戦争する国」の「人材」(兵士およびそれを支える国民)をつくることにある。そのために道徳を正規の教科に“昇格”させ、全教科の上におき、「愛国心」などを植えつける“教育”の強化を図っているのであろう。本件についての資料は、URL http://www.ne.jp/asahi/tawara/goma/でも報じている。

(俵義文・子どもと教科書全国ネット21事務局長、10月31日号)

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