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福島原発事故めぐり東電や元請企業の責任を問う――現役の作業員が初めての提訴

2014年9月29日12:01PM

9月3日にいわき市内で開かれた「原発労働者員裁判 報告・支援集会」の様子。(撮影/布施祐仁)

9月3日にいわき市内で開かれた「原発労働者員裁判 報告・支援集会」の様子。(撮影/布施祐仁)

東京電力福島第一原発事故の収束・廃炉作業で本来支払われるべき危険手当などが支払われなかったとして、現役の作業員二人と元作業員二人が9月3日、東京電力(東電)や元請企業など17社を相手に計約6200万円の損害賠償を求める訴訟を福島地裁いわき支部に起こした。

提訴したのは福島県内に住む34~65歳の男性四人で、東電の三、四次下請企業の労働者として、同原発構内でがれき撤去や汚染水タンクの点検などの業務に従事した。現役の事故収束作業員による提訴は初めて。

原告らは訴状で、「危険手当は放射線被ばくをともなう福島第一原発の事故対応・廃炉作業といった危険な被ばく作業に従事する労働者のために支払われる性質のもの」とし、「下請企業らがピンハネすることは許されない」と指摘。東電が、多重下請構造のもとで危険手当がピンハネされていることを認識しながら、これを放置してきたことは「共同不法行為に当たる」として、その責任を厳しく追及している。

原告の一人、元作業員の男性(65歳)は「私は1日1万5000円(危険手当込み)もらっていたが、まったく同じ仕事をしていた別の作業員は9000円しかもらっていなかった。不満はあっても、みんなクビになるのが怖いから言えない。誰かが風穴を開けて、その穴を大きくしていかないといけない」と提訴した理由を語った。

この日は、事故発生直後の収束作業で無用な放射線被曝を強いられたとして、元作業員の男性(48歳)が東電や元請企業など三社に対し1100万円の損害賠償を求めた訴訟の第一回口頭弁論も福島地裁いわき支部で開かれた。

原告は事故発生直後の2011年3月24日、3号機タービン建屋で電源ケーブルの敷設作業に従事した。作業開始前のミーティングでは、元請・(株)関電工の放射線管理者から作業場所の空間線量は毎時10mSv(ミリシーベルト)程度と聞いていたが、現場に行くと、床には普段あるはずのない水が溜まり、そこに足を浸けて作業を始めた元請の担当者の線量計の警報はすぐに鳴り始めた。しかし、担当者は作業の続行を指示した。

原告の男性は、水に足を浸けての作業は拒否したものの、約11mSv被曝。溜まり水は原子炉から漏れてきたもので、表面の放射線量が400mSvもある高濃度汚染水だった。(株)関電工の担当者らは約180mSvの被曝をし、汚染水に触れた足の皮膚がベータ線熱傷のおそれがあるとして千葉県の放射線医学総合研究所に搬送された。

訴状は「本来であれば即時撤退しなければならないほど放射線量の高い環境下で作業に従事させられた結果、無用な被ばくをさせられた」と指摘。「労働者の労働安全環境を整えて、できる限り被ばくを低減させ、無用な被ばくをさせない義務が、労働安全衛生法とその関連法規によって事業者には課せられている」と東電や(株)関電工の責任を追及している。

被告・東電の代理人は「事故を起こしたのが東電だから、何でも東電が責任を負うのが当然と言うのはいかがなものか」と発言。答弁書でも原告の男性が東電と直接雇用関係になかったことなどを理由に「安全配慮義務はない」などと、争う姿勢を示している。

口頭弁論後にいわき市内で開かれた「原発労働者裁判 報告・支援集会」で広田次男弁護団長は「二つの裁判に共通するのは、原発固有の多重請負構造に起因している点だ。この構造のもとで賃金や危険手当がピンハネされ、安全管理の責任体制が不明瞭になっている。福島第一原発に良質な労働力を確保し、廃炉作業を安全に進めていく上で、この点の改善は不可欠。これは日本全体で考えなければならない緊急課題」と強調した。

集会には原発周辺地域からの避難者を含む約90人が参加。「支援する会」の設立も確認された。

現役作業員として初めて東電などを提訴した男性(34歳)は、「大変勇気をもらった。これから、(労働者の待遇が)改善されていくのを現場で見ていきたい」と語った。

(布施祐仁・ジャーナリスト、9月19日号)

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