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原発事故の真相解明に高まる期待――「吉田調書」の開示を政府へ請求

2014年6月30日5:28PM

「吉田調書」などの情報公開を請求したと報告する脱原発訴訟の原告団代表ら。(撮影/小石勝朗)

「吉田調書」などの情報公開を請求したと報告する脱原発訴訟の原告団代表ら。(撮影/小石勝朗)

「原発事故の原因究明と対策に不可欠な文書。公有財産です」

多くの脱原発訴訟や活動に携わる海渡雄一弁護士は6月5日、政府に情報公開請求をした後の会見で「吉田調書」をこう評価した。

東京電力福島第一原発で事故が起きた当時の吉田昌郎所長(故人)を、政府の事故調査・検証委員会(以下、政府事故調)が聴取した非公開の記録で、『朝日新聞』が5月20日、この調書を「入手した」と報じて反響を呼んだ。吉田氏への聴取は2011年7月~11月に13回、計28時間に及び、A4判で400ページを超すという。

情報公開請求をしたのは、東電株主代表訴訟、原発メーカー訴訟、泊原発(北海道)や東海第二原発(茨城県)の運転差し止め訴訟の原告団と福島原発告訴団の代表ら計9人で、海渡氏らが代理人を務める。吉田調書をはじめ政府事故調が聴取した計772人分の記録も開示するよう求めている。

請求理由で「原発事故の際に何が起こっていたのかを正確に知ることは、事故の刑事・民事責任を明らかにし、全国の原発の再稼働の適否について考える上での前提。政府事故調の記録は、そのための極めて重要な一次資料」とし、「社会に還元すべき」と強調している。

政府は、吉田氏が「調書を公表されることは望まない」との上申書を出していたと説明する。ただし、これは政府事故調から調書の提供を受けた国会事故調による第三者への公開を望まないとしたもので、「政府の情報公開のルールに則って開示することを拒否する意思は含まれていないとみるべきだ」と、海渡氏らは主張する。

政府事故調は12年7月に最終報告書を発表しているが、それでも調書原本の開示を求める意義を会見で問われ、海渡氏は「報告書を下書きした官僚が筆を丸めたためか、原本と報告書には微妙な違いがあるようだ。原本を精査すれば、事故原因が別の角度から見えてくる可能性がある」と指摘した。

東電の個人株主が現・元取締役27人に対し5兆5045億円を会社へ賠償するよう求めた東電株主代表訴訟では、会議録や稟議書など、社内の関連書類を見られないことが原告側のネックになっている。事故直後に福島第一原発と本店を結んだテレビ会議の録画・録音も、裁判所が保管することで東電と合意したが、内容は未開示のままだ。木村結事務局長は「真実を知りたいのは福島の、全国民の願い。(東電と)同じ土俵に乗るには生の情報が必要です」と語る。

福島原発告訴団は、東電や政府の幹部らを業務上過失致死傷などの容疑で検察に告訴した。が、検察は東電本店の家宅捜索をしないまま、昨年9月にこれを不起訴とした。武藤類子団長は「事故の責任を知るためにも調書を明らかにしてほしい。それが被害者の救済や再発防止につながる」と訴える。

今回の請求に対する政府の決定は30日以内に出る。少なくとも吉田調書については、不開示になればただちに公開を求める行政訴訟を起こすという。「公表されるまで闘う」と請求者らは力を込める。

【事故検証に新展開か】

吉田調書をめぐる『朝日新聞』の初報は「所長命令に違反 原発撤退」の見出しで、「東日本大震災4日後の11年3月15日朝、第一原発にいた所員の9割にあたる約650人が吉田氏の待機命令に違反し、10キロ南の福島第二原発へ撤退していた」と書いた。

この記事に対して『週刊ポスト』(6月20日号)は「『吉田調書』スクープは従軍慰安婦虚報と同じだ」と見出しをつけ、『FLASH』(6月24日号)は「朝日新聞1面スクープのウソ」とするなど、「誤報」「虚報」を強調して批判している。『朝日新聞』は両誌に抗議文を送り、訂正・謝罪記事の掲載を求める騒ぎになっている。

他方で、本件の報道が触媒となって民主党の細野豪志元首相補佐官らが当時の状況を語り始めており、原発事故の検証に新たな展開のきざしが出ている。吉田調書を入手できていないとみられる他紙の扱いとあわせて、今後のマスコミの動向も注目される。

(小石勝朗・ジャーナリスト、6月20日号)

 

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