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有害性には一切触れない展示内容は問題――たばこ博物館に閉鎖を要請

2014年4月8日6:49PM

「たばこと塩の博物館」前で「禁煙」をアピール=2012年6月3日。(撮影/渡辺文学)

「たばこと塩の博物館」前で「禁煙」をアピール=2012年6月3日。(撮影/渡辺文学)

 禁煙活動に活発に取り組んでいる日本禁煙学会(作田学理事長)は3月13日、東京と大阪にある二つの「博物館」の閉鎖を求める声明を発表した。

 二つの「博物館」は、東京都墨田区横川へのリニューアル・移転のために現在休館中の「たばこと塩の博物館」と、大阪府高槻市にある「JT生命誌研究館」。この二つは、JT(日本たばこ産業)がCSR(企業の社会貢献活動)の一環として運営しており、特に小・中学生の見学が多く、禁煙に取り組んでいる団体や関係者からは、以前より問題視されていた。

 たとえば「たばこと塩の博物館」では、塩は単なる添え物で、タバコを主体としてこれまでに発行されたポスターやタバコの歴史などを掲示し、喫煙の害や世界各国のタバコ規制の現状についてはまったく触れられていない。「博物館」というのであれば、当然タバコの有害性や病気との関連、WHO(世界保健機関)の取り組み、世界各国の動向などもあって当然だが、そのような展示は皆無だ。「タバコは文化」として、著名人とタバコの関わりなどが巧妙に展示されており、タバコに興味を持たせるよう誘導しているのである。

 この「博物館」の開設は1978年秋だったが、この年の2月には「嫌煙権運動」がスタート。マスコミで大きく取り上げられ、タバコの有害性について世論が大きく変化していった時期である。

 場所は東京・渋谷の一等地で、渋谷区役所の近く、パルコの前にあったが、昨年から移転のため休館しており、2015年春に新しく開館する予定となっている。

 一方、「JT生命誌研究館」は、1993年に設立。高槻市の閑静な住宅街に設けられており、生命科学に関連した展示と研究を行なっている博物館である。

 この「博物館」は、「『生きてるってどういうこと?』生きものを見つめ、研究し、その過程や成果を表現することを通して、自然・生命・人間について考える場」とし、さらに「いのちを大切にする社会づくりに努める仲間としてご参加ください」と呼びかけている。

 館長の中村桂子氏はテレビやラジオ、新聞などにたびたび登場し、「科学者」として生命や環境問題の重要性について力説しているが、タバコが多くの人々の生命・健康を侵している事実については、これまでまったく発言していないのだ。JTから多額の報酬を得ている人物を、メディアが盛んに起用している事実にも大きな問題がある。中村氏が真の「科学者」であるならば、タバコの危険性について、きちんと発言すべきではないか。

国際条約違反のCSR

 実は、タバコ産業のCSR活動は、日本政府も批准した「タバコ規制枠組条約」(FCTC)という国際条約で禁止されている。

 CSRとは、本来は、企業が利益を追求するだけではなく、利害関係者、消費者、投資家、従業員、地域社会などとの関係を重視しながら果たす社会的責任という意味である。しかし、年間十数万人という死者を生み出し、健康被害をもたらしている有害商品を製造・販売して膨大な利益をえているJTのCSRは、正に反社会的行為として糾弾されてしかるべきなのではないか。

 具体的にはJT本社が中心となって展開している(1)ひろえば街が好きになる運動(2)未成年者喫煙防止キャンペーン(3)ゴルフJTカップ(4)バレーボールチームの運営(5)いきいきフォーラム(6)NPO助成事業(7)JTの森(8)東京・大阪の博物館運営――などがある。

 また、JTが資金を全額負担して、別団体に行なわせている事業に(1)少年少女将棋大会(2)アフィニス文化財団によるクラシック・コンサートの助成――などがある。

 いずれにせよ、これらすべてのCSR活動は、過去5回にわたるFCTC締約国会議(COP)によって全て禁止するよう決議されており、日本政府代表団もこの会議に参加して「賛成」しているのであるから、これを遵守するのは国際法の精神から考えても当然だ。

(渡辺文学・タバコ問題情報センター代表、『禁煙ジャーナル』編集長、3月28日号)

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