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東電の隠蔽体質に非難の声――福一原発で汚染水が海洋流出

2013年8月19日4:41PM

記者会見で汚染水流出を認める東電の尾野昌之原子力・立地本部長代理。(撮影/おしどりケン)

記者会見で汚染水流出を認める東電の尾野昌之原子力・立地本部長代理。(撮影/おしどりケン)

 東京電力は七月二二日、定例会見を開き、福島第一原発で汚染水が海洋流出していることを初めて認めた。なぜ、参院選の翌日の発表なのか。記者会見は紛糾した。

 同日、分厚い資料が配布され、一時間以上にもわたる冒頭説明の後、東電は結論をこう結んだ。

「本年五月以降にNo.1観測孔で確認された汚染を含む地下水の開渠内への行き来が考えられます」

「開渠」とは、福島第一原発の港湾内の取水口を囲む部分である。

「開渠内への行き来、という表現をされているが、はっきり言ってください、これは海洋への漏洩を東京電力が認めるということですね」との記者の質問に、東電は「はい、そういうことになります」。

 会見場からは非難の声が相次いだ。地下水から高濃度の汚染が検出されたのは五月。その調査のために地下水の観測孔を作ったのが六月で、そのとき海から四メートル付近の地下水に高濃度汚染が見つかり、「そんなに海に近い部分の地下水が汚染されているのなら、海洋にも漏れているのではないのか」という質問が一カ月以上繰り返されていたからだ。

 東電の回答は「海水の放射性物質の値に顕著なものは見られない」の一点張りで、海洋への漏洩を認めていなかった。

 選挙期間中の七月一〇日に、田中俊一原子力規制委員会委員長が「海洋の汚染は、大なり小なり続いていると思う。事故時に一番汚染したが、その後もずっとこの二年間も続いていると思う」と記者会見で発言。それでも東電は一貫して「データを蓄積しないと判断できない」と認めていなかった。

 それが選挙の翌日に一転、「少なくとも五月から海洋へ汚染水が漏洩していた」と発表したのである。筆者は六月からずっと潮汐と降雨と地下水の評価、地下水の水位を出してほしいと質問していたが、この日、一月からの評価データが発表された。「なぜ質問していたデータが存在したのに公表しなかったのか」という筆者の質問に、東電の回答は「意を尽くせてないところは申し訳なく思います」。

 とんだ茶番劇である。

 港湾内への漏洩を認めた東電ではあるが、港湾外への漏洩はまだ認めていない。筆者は昨年から「港湾内の海水の動き、潮汐などでの濃度の希釈をどう評価しているか」と質問し続けているが、「評価が難しい」と回答はない。

 しかし、東京海洋大学の神田穣太教授の研究グループでは、港湾内の海水は毎日四四%程度入れ替わっているという試算を二〇一二年に発表している。つまり、汚染された地下水は港湾内に流れ込み、潮汐により、港湾外に出ていっているのである。

 さらに、六月二八日の第一三回特定原子力施設監視・評価検討会

で規制庁の金城慎司室長が「(福島第一原発の)五、六号では取水口から放水口に流れがあり、今の実施計画上六五〇〇立方メートル/時の流れがある」と説明。つまり、五、六号機は廃炉になってはいないので、冷却機能が生きている。海水による冷却が行なわれており、海水ポンプが働いていて取水口からは海水がくみ上げられ、その水は放水口から放水されているのである。その流れが毎時六五〇〇トンという。港湾内の水が五、六号機の復水器を通って放水口から外海に放出されていたのだ。

 東電は現在、「汚染した地下水は港湾内に漏洩しているが、汚染は港湾内に留まっている」としているが、現時点でまだ評価していない状態だ。

 海洋へ漏洩した汚染水は、濃度の発表のみで、総量、拡散の評価など一切発表されていない。漏洩開始時期も「少なくとも五月から」という発表だ。なぜなら、汚染が発見された地下水観測孔の五月以前のデータがないからである。このような後手後手の調査、作業でいいのだろうか。

 田中委員長は七月二四日「(放射性物質の濃度が基準以下の)水を海に捨てられるようにしないとにっちもさっちもいかない」と発言し、漁民の怒りの火に油を注いだ。

 福島第一原発事故の収束はあまりに遠く、また計画が拙い。

(おしどりマコ・ケン、8月2日号)

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