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「強靱化」で決めてはいけない――防潮堤の再考を

2013年7月19日12:13PM

防潮堤の建設計画に頭を悩ませる住民の話を聞く筆者(中央)。気仙沼の大島。(撮影/編集部)

防潮堤の建設計画に頭を悩ませる住民の話を聞く筆者(中央)。気仙沼の大島。(撮影/編集部)

高さ約一五メートル、延べ三七〇キロ、全国四〇三カ所に建設されるコンクリート巨大防潮堤はいったい何を守るのか?

 六月二三日、東京大学駒場キャンパスで「東北から、百年後の日本を考える――防潮堤を再考するシンポジウム(1)」が開かれた。主催は「東北から日本の未来を考える会」。共催が東京大学の「人間の安全保障プログラム」と宮城県気仙沼の「防潮堤を勉強する会」。

 一橋大学の山内明美さんは「はじめに防潮堤ありきではなく、三陸沿岸の暮らしが海からの恵みと脅威との狭間で成立してきた事実を考える」ことから出発すべきだと提言した。気仙沼市大谷海岸の三浦友幸さんは、地元の住民が行政と協力しながら地域の実情に合わせて合意形成をはかる過程を報告。岩手県大R町長の碇川豊さんは「誰でも高い壁に囲まれた刑務所のなかで暮らすのはごめん」だとし、防潮堤を囲む「鎮魂の森」構想について語った。

 討論では、東京大学の丸山真人さんが「経済成長という呪文から解放される必要」を説き、慶應義塾大学の小熊英二さんは「下からの意思決定が重要。防潮堤を再考する運動は地元が政治力をつける契機となる」と述べた。また、「東北開墾」代表の高橋博之さんは、自分たちで選択肢を作ることの重要性を強調した。

 被災地では、行政が防潮堤の有効性を説く場所がある一方で、避難道や漁業、景観を優先した方がいいと住民が要望する地もある。

「防潮堤」問題は被災三県にかぎった話ではない。日本列島における向こう数百年の生活を左右する分岐点だ。「ミクス」だの「強靱化」などといったレトリックで決まっていいはずがない。

 今後も七月一〇~一一日には仙台市秋保温泉で合宿、七月一三日には東北学院大学で「シンポジウム(2)」と、「防潮堤を再考する」運動は継続されていく。詳細は URL http://thinkseawall.wordpress.com/

(本橋哲也・東京経済大学教員、7月5日号)

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