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「一票の格差」で戦後初の無効判決もどこ吹く風――抜本是正に遠い「0増5減」案

2013年4月19日4:41PM

「国会によって権威を失墜させられた司法が、もう我慢ならないと出した判決じゃないでしょうか」

 昨年一二月の衆議院議員選挙をめぐる「一票の格差」訴訟の中心メンバーの一人、伊藤真弁護士は、全国の高等裁判所・支部が三月六日から二七日に出した判決をこう分析した。一六の判決には見事なまでに「違憲」が並び、うち二つは戦後初めて国政選挙を「無効」と結論づけた=一覧表参照。

 衆院選時点での一票の格差は最大二・四二五倍。二倍以上の小選挙区は七二で、二〇〇九年の前回より二七も増えた。一一年三月の最高裁判決が前回衆院選を「違憲状態」と判断していたのに、今回も同じ区割りで実施された。

「判決が確定した時点で選挙は無効」と最も厳しい裁きになった広島高裁岡山支部(片野悟好裁判長)の論理は明快である。伊藤氏が何より評価するのは、国民主権や代表民主制の本質をきちんととらえている点だ。

 判決は「国民一人一人が平等の権利でもって代表者を選出するからこそ、国民の多数意見と国会の多数意見が一致し、国民主権を実質的に保障することが可能となる」と謳い、「国政選挙における投票価値の平等は、国民主権・代表民主制の原理と法の下の平等の原則から憲法の要求するところである」と伊藤氏らの主張を受け入れた。

 そして「選挙区(国民の居住地)によって投票価値に差を設けないような、人口比例に基づく選挙区制を実現するように十分に配慮しなければならない」と求めた。伊藤氏によると、こうした論理をはっきり示した判決は初めて。

 一一年の最高裁判決から今回の選挙まで一年九カ月弱の期間が、区割り是正のために十分だったかどうかも争点だった。

 岡山支部判決は、国会議員が憲法擁護義務を負っていることを挙げ、最高裁判決を踏まえて「国会は直ちに是正措置を講ずるべき」だったと指摘。衆院選の一カ月前に成立した「0増5減」の緊急是正法を「投票価値の格差是正のための立法措置を行ったとは到底いいがたい」と切り捨てたうえで、抜本是正をしないまま選挙を実施したのは「国会の怠慢であり、司法の判断に対する甚だしい軽視というほかない」と強く批判して、区割りを違憲と断じた。

「米国では選挙区間の一九人の差が違憲とされ、判決から九日で州議会が差を一人まで是正した例がある。日本の国会にはあきれるばかりです」(伊藤氏)

 さらに、違憲の選挙を無効とするかどうかについて、岡山支部判決は「長期にわたって投票価値の平等に反する状態を容認することの弊害に比べ、無効と判断することによる政治的混乱が大きいと直ちにいうことはできない」と言い切った。「違憲だけど選挙は有効」とする事情判決の法理を適用せず、国民主権や代表民主制の原則を尊重する立場を取ったのだ。これも伊藤氏が評価するポイントだ。

 一連の判決を受けて安倍政権は「0増5減」を優先する方針で、格差は最大一・九九八倍と二倍以内に収まるとしている。しかし、伊藤氏は「民主主義が機能していないことに変わりはなく、程度の問題ではない」と手厳しい。

 最高裁の判決は今秋にも予想される。伊藤氏はこう訴える。

「違憲状態で選ばれた民主的正当性のない国会議員が国家権力を行使し、憲法改正の議論までしようとしているのは異常な事態だ。最高裁は速やかに、人口比例原則に基づいて区割りを是正するよう明確に命じる判決を出してほしい」

(小石勝朗・ジャーナリスト、4月5日号)

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