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早くも高市氏と野田氏が不協和音――安倍政権、参院選へ不安材料

2013年1月22日5:07PM

 三年三カ月ぶりに政権を奪還した自民党。安倍晋三氏にとっては五年三カ月ぶりの首相の座への復帰となる。

 安倍氏が再度首相に就任して、株価は一万円台を軽く突破した。ドルも二年ぶりに八八円台を超えた。経済界では景気回復の期待が高まっている。「本格政権誕生」に、世間が浮かれているように見える。だが安倍氏が首相になったからといって、それほど簡単に日本は浮上できるのだろうか。

 安倍氏が前回、首相を辞任したのは二〇〇七年九月一二日だ。持病である内臓疾患の悪化が直接の原因とされた。だが本当の原因は同年七月に行なわれた参議院選挙だった。自民党は改選議席を六四から三七と大きく減らしてしまい、これが安倍氏の政治的求心力を一気に失わせたからだ。

 もともと安倍氏の政治基盤はさほど堅固ではない。小泉純一郎元首相の後継として官房長官や自民党幹事長に抜擢されたのも、「岸信介の孫」というブランドと若さゆえのものだった。

 昨年九月二六日に行なわれた自民党総裁選でも、安倍氏が獲得した地方票は八七票で、一六五票を獲得した石破茂氏の約半数にすぎず、第一回投票では二位に甘んじている。同総裁選は来たる衆議院選挙を見込んでのものであり、地方票の重みは大きかった。結果を不満として、県連役員を辞任する地方議員もいたほどだ。

 そうした事情を払拭すべく、党の要となる幹事長に石破氏を据えた。ライバルを牽制しつつ次期総裁候補としての芽を残し、党内での不満を抑える方法だ。政調会長と総務会長に女性議員を据えたのも、話題作りとともに新しい党のイメージ戦略のためだ。ただしこれは、不安要素にもなりかねない。

 というのも、目玉とした高市早苗政調会長と野田聖子総務会長との間に不協和音が聞こえるからだ。

 彼女たちは学年が同じためか、これまで何かと比べられてきた。三七歳でいち早く郵政大臣として入閣を果たした野田氏に比べ、二度の落選を経験している高市氏はやや不遇と言えた。しかし当選回数が六回の高市氏は七回の野田氏より格上の政調会長。かねてから夫婦別姓制度について対立していた二人だったが、一月六日の報道番組で女性の社会進出を促す数値目標について再度対立した。「女性だからといって優遇する必要はない」とする高市氏に対し、野田氏は「数値目標は大切だ」と断固として譲らなかったのである。

 自民党の政策決定プロセスは政調の下にある各部会で議論され、最終的に総務会で決定されることになっている。よって政調会長と総務会長の意見が分かれてしまっては、政策はたちゆかなくなる恐れがあるのだ。

 また安倍氏が「持論」とする河野談話の見直しについても、疑問がある。河野談話とは一九九三年八月四日に河野洋平官房長官(当時)が従軍「慰安婦」について日本の謝罪を表明したものだが、第一次安倍政権は〇七年に「強制性はなかった」との閣議決定をしている。だが安倍氏自身は河野談話の踏襲を口にしたこともあり、主張が一貫していない。さらに菅義偉官房長官は昨年一二月二六日の会見で村山談話を踏襲することを表明しており、河野談話を全面的に否定できるのかどうかは疑問だ。今は内閣支持率が高くても、ここで優柔不断さを出せば、安倍氏を強く支持する右派の層がことごとく離れてしまう可能性もある。

 今年七月に行なわれる参院選も鬼門だ。安倍氏の悲願の「憲法改正」には、参院でも三分の二以上の議席数が必要だが、安倍氏が指揮した参院選で自民党はことごとく敗退したからだ。

 首相として采配を振い大敗した〇七年の参院選ばかりではない。〇四年の参院選でも安倍氏は五一とした目標議席数を確保できなかった。そのために責任をとって幹事長職を辞してもいる。

 五年三カ月の「静養」で安倍氏が大きく変わったというが、それならば、このジンクスも破られるのか。今年の参院選でそれが明らかになる。

(天城慶・ジャーナリスト、1月11日号)

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