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安全対策がおざなりにされる大飯原発再稼働――高線量防護服10着で足りるのか

2012年7月11日6:34PM

 関西電力大飯原発の再稼働に踏み切った野田佳彦首相に批判が集中しているが、批判すべきは民意に背く野田政権だけではない。関西電力が発表した大飯原発の安全対策もまた噴飯ものだ。東京電力福島第一原発事故からどんな教訓をくみ取ったのか。その内容を検証すると、再稼働ありきで、「想定外」だらけの杜撰な対策が浮かび上がってくる。

 大飯原発の再稼働反対が大きなうねりとなりつつあった今年四月、関西電力は「大飯発電所3、4号機における更なる安全性・信頼性向上のための対策の実施計画」を発表した。この報告書の冒頭で、関西電力の八木誠社長は「想定を超える事象に対しても頑健性は十分。世界最高水準の安全性を達成すべく、私が自ら先頭に立って、努力してまいります」と記述し、トップ自らが再稼働に向けて安全性を訴える念の入れようだった。

 八木社長の自信にあふれる言葉と裏腹に、報告書は安全対策に疑問符のつく記述が並ぶ。福島第一原発の敷地内には、数時間その場で作業しただけで死に至るほどの高放射線区域があり、高線量対応防護服の着用が不可欠である。しかし、大飯原発に配備にされた高線量対応防護服は、わずか一〇着。しかもカタログ上の放射線遮蔽能力は約二〇%しかなく、形状がベストのため、頭や手足の部位の被曝は避けられない。

 高線量対応防護服は何着くらい必要か。福島第一原発の事故発生時から今年四月までの約一年間に内部被曝と外部被曝の合計が一〇ミリシーベルトを超えた作業員は七四二〇人。このうち緊急被曝限度(一〇〇ミリシーベルト)が適用される特定高線量作業従事者の中で二四二人が五〇ミリシーベルトを超えた(五月三一日、東京電力発表)。事故現場から判断すると、高線量対応防護服は少なくとも一〇〇着以上は必要だろう。一〇着で足りるとする関西電力の方針では、事故が発生した際、作業員に無用な被曝を強いることになる。

 原発の炉心や使用済み燃料ピットの崩壊熱除去のための給水に必要な消防ポンプの燃料保管についても問題がある。燃料のガソリンは、軽量鉄骨の平屋建物内に保管してあり、関西電力は「地震で倒壊してもガソリンドラム缶が損傷して使用不可能になることはない」と主張している。保管庫の倒壊でガソリンが漏れ出して火災が発生、消防ポンプの燃料を失うことで炉心や燃料ピットが冷やせなくなるのは「想定外」のようだ。

 災害時の要員招集体制も心許ない。関西電力は「常駐要員を増員し、発電所外部からの支援なしで電源確保および水源確保が独立して実施できる体制とする」としているが、大飯原発の休日体制時の常駐要員はわずか五四人。ただでさえ少ない常駐要員が地震や津波で死傷し、実際に対処できる要員が減ることも「想定外」のようで記載はない。

 福島第一原発事故では、初動段階で約八〇〇人が事故対処に当たり、現在でも職員と作業員合わせて約三〇〇〇人が事故処理に関わっている。関西電力は「協力会社による要員派遣体制も構築した」としているが、地震や津波で他の原発でも同時期に事故が発生した場合、計画通りに要員や防護服を確保できるのか疑問が残る。

 緊急時に指揮系統の要となる免震事務棟は二〇一五年度、既存の防波堤のかさ上げは二〇一三年度の完成予定となっており、安全対策を二の次にしたまま、再稼働に向けた作業が進んでいる。現に再稼働準備中の大飯原発ではトラブルが続発。六月一九日に発電機冷却水タンクの水位低下を示す警報器が作動、二三日深夜~二四日朝にかけて断続的に二六回送電線の監視システムで警報が鳴った。

 八木社長が高らかに謳う「世界最高水準の安全性」が、この程度のものであれば、福島第一原発に匹敵する事故がいつ起きても不思議ではない。安全対策をおざなりにして再稼働に突き進む政府と関西電力の姿勢は、国民の理解を得られないばかりでなく、原発の安全対策への不安と原子力政策への不信を助長するだけであろう。

(高橋剛・ライター、6月29日号)

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