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新聞業界衰退がからむ読売巨人軍の内紛劇――ナベツネ氏告発の背景に部数減

2011年11月29日6:04PM

 読売巨人軍の清武英利代表が一一月一一日、文部科学省で記者会見を開き、巨人軍の人事をめぐる渡邉恒雄会長の独断を批判する声明を発表した。内部告発である。記者会見はインターネットで放映され、瞬く間に波紋が広がった。

声明によると、内部告発の発端は、巨人軍の一軍ヘッドコーチ・岡崎郁氏の留任が首脳陣の合意で決定していたにもかかわらず、契約書を交わす二日前になって、渡邉氏が独断で江川卓氏を起用するように要求したことである。

渡邉氏は今年の三月にもプロ野球の運営をめぐって独善ぶりを露呈している。東日本大震災の影響を配慮して、リーグ戦の開幕を遅らせる動きが現れるなか、セ・リーグの開幕を予定通り三月二五日にするよう強硬に主張したのだ。

 さらに四月には渡邉体制下で、読売新聞社の内山斉元社長が健康上の理由によって日本新聞協会会長を辞任する急変劇が起こる。その後、内山氏は読売の社長も辞した。

 こうした状況の下で新聞業界の内外に、内紛説をはじめさまざまな憶測が流れた。それを敏感に受け止めたのか、渡邉氏は七月八日に開かれた全国の読売新聞販売店(YC)店主が集う「読売七日会・東京読売会」の合同総会で、自らが読売新聞社の最高責任者であることを改めて宣言した。その内容が物議を醸した。

「内山君の病気のこともあるので八五歳という最高齢で、事実上の最高経営責任者であるわたしの健康状態について報告しておきます。今月、慈恵医大病院で、世界的な血管外科の大家として知られる大木隆生先生に、全身の内臓検査をしてもらいました」と、前置きした後、主治医の報告書を読み上げたのだ。その中には、「最も素晴らしいことは、八五歳と高齢であるにもかかわらず、脳に萎縮がまったく見られないことです」の一文も含まれていた。「この世には小生が早く往生することを願っている人も少なくないようですが、その人達は失望されても仕方のないことです」とも、述べた。

今回の内部告発の背景には、単なる感情論を超えて、新聞産業の衰退が引き金となった焦りがあるのでは、との見方もある。『毎日新聞』の元運動部記者でスポーツ・ジャーナリストの大野晃氏は「読売内部の人事問題なので、外部の者は真相を知り得ません」と前置きして、次のように推測する。

「読売ジャイアンツは読売グループの中では最優良企業です。読売新聞社はジャイアンツの記事を書き、ジャイアンツを盛り上げることで新聞拡販を有利に展開してきました。ところが今年、ジャイアンツのホームゲームでの観客動員数は前年に比べてマイナスになりました。リーグ優勝を逃した上に、ドラフトでも希望する選手を取れなかった。新聞離れが急速に進む中、読売の経営も決して楽ではないと推測されます。こうした状況下で、渡邉氏のワンマンぶりがエスカレートし、不協和音が広がった結果かもしれません」

 実際、読売新聞社の広告収入は、ここ一〇年で約七〇六億円も減少(四七%の減)している。さらに東日本大震災の影響で、読売の看板「一〇〇〇万部」を割ってしまった。これを回復すべく、前出の合同総会では、一〇〇〇万部の復活が方針にあがった。また、総会に先立つ六月人事では、「販売畑」を歩いてきた宮本友丘専務が副社長に抜擢されている。

 渡邉氏の部数への執着は並々ならぬものがあり、一九九一年に社長に就任した際には、販売第一主義を宣言した。そして景品を使った新聞の乱売により、一〇〇〇万部を達成し、部数を背景に政界を動かすようになる。新聞拡販において球団のPRが重要な役割を果たしてきたことは論をまたない。

 ところが新聞産業の衰退が顕著になり、読売の「顔」、ジャイアンツも精彩を欠いてきた。そこで渡邉氏は新聞社の人事を再編し、YC店主を激励し、ジャイアンツの人事にも強いこだわりを見せたのではないか。今回の内部告発を通じて、球団を組み込んだ新聞社経営の弱点が浮き彫りになった。

(黒薮哲哉・ジャーナリスト、11月18日号)

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