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韓国政府をも動かした憲法裁判所の判決――高まる植民地支配清算への期待

2011年10月18日6:07PM

シンポで早期解決を怒りをこめて訴える「慰安婦」被害女性、イ・オクソンさん。(撮影/矢嶋宰)

 一〇月二日、東京の明治大学で「『東アジア歴史・人権・平和宣言』植民地支配は人道に対する罪」と題するシンポジウムが開かれた。二〇〇一年に南アフリカで開かれた国連主催の反人種主義・差別撤廃世界会議で採択された「ダーバン宣言」をさらに発展させ、東アジアにおける植民地支配の克服という課題の道筋を探ることを目的としたものだ。

 シンポで阿部浩己氏(国際人権法)は「植民地主義の不当性を認めないことが、自らの強権を批判できない事態を継続させてきた」と報告。金東椿氏(社会学)は「天皇制の存続と自民党体制の“確立”が足枷。日本の立ち遅れた市民社会は未清算の過去と関係している」とし、日本が戦後責任に対しても消極的・否定的な姿勢で向き合ってきた原因を指摘した。

 この間、日本による植民地政策の被害各国で「過去の清算」に向けた取り組みが活発化している。

 きっかけになったのは、八月三〇日に韓国の憲法裁判所が出した判決だ。韓国の日本軍「慰安婦」被害女性らが賠償請求権をめぐり訴えを起こしていた問題で、憲法裁判所は、韓国政府が解決のための措置をとる義務があるにもかかわらず、履行してこなかったのは違憲であるという判断を下した。

 政府側は、これまで被害女性らの生活支援をしてきた等の反論をしてきたが、原告である被害女性らの主張が認められたことになる。一九六五年に締結された日韓基本条約によって、すべての案件が法的に解決されたかどうかをめぐり、両国の間では見解に食い違いが出ている。「慰安婦」問題が条約の中に含まれていたか否かという問題もその一つだ。

 憲法裁判所の判決について、戦後補償ネットワーク世話人代表の有光健氏は「民主党は社民・共産党と組んで『戦時性的強制被害者問題解決促進法案』(以下法案)の提出に積極的だったが、状況は進展しなかった。外務省も韓国政府の沈黙を理由に被害者と支援者の要求をかわしてきた。今回の判決は、それを変える契機となり得る。九月一日にはソウルの日本公使に判決内容を口頭で伝達し、二四日にニューヨークで開かれた日韓外相会談や一〇月六日の玄葉光一郎外相訪韓時にも、外交交渉を日本側に提起、国連総会でも同様に提起するなどこれまでとは違う状況」と語る。

 問題は日本がどう変わるかだ。判決内容によれば第三国に仲裁を委託するという選択もあるが、負けるかもしれない勝負のために外務省がのってくる可能性は低い。

 憲法裁判所の決定に続き、九月一六日には韓国の与野党議員一七人が連名で、日本の「戦犯企業」一三六社を名指しで挙げる報告書を議会に提出した。政府発注の入札参加への制限を明示した「国家を当事者とする契約に関する法律」(一〇年八月発議)を受けたもの。報告書は、植民地時代および戦時中に強制動員された朝鮮半島出身者に対する日本企業による謝罪や賠償がなされていない現実に、一刻も早い解決を求める内容となっている。

 この名簿の中には、麻生太郎元総理の生家である旧麻生鉱業(現麻生セメント)をはじめ間組、大成建設、三菱重工、日立造船、日産、三井、昭和電工、JRグループ、大林組、鹿島建設、住友金属、富士重工、川崎重工、いすゞなどの名が連なっている。

 しかし新しい、別の動きもある。西松建設が第二次大戦中、中国人労働者を強制連行した件で二〇一〇年被害者側と和解したケースが例外的にある。西松建設は被害者とその遺族に謝罪するとともに、記念碑を建立し、二億五〇〇〇万円の和解金を支払うことを約束した。中国政府が戦犯企業に対し入札を制限したことが、西松側の決断に大きく影響したと見られる。

 九二年にスタートしたソウルの水曜デモが一二月に一〇〇〇回目を迎えるが、韓国における元「慰安婦」被害者の生存者はわずか六九人。憲法裁判所の判決、戦犯企業名の発表などは、被害者だけでなく、加害者である日本にとっても好機となるはずだ。

(矢嶋宰・フォトジャーナリスト、10月7日号)

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