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現職町長が三選――争点にならなかった上関原発

2011年10月14日6:20PM

 中国電力の原発計画を抱える山口県上関町で九月二五日、町長選挙の投開票が行なわれた。東京電力・福島第一原発事故後、初の原発新規予定地での首長選挙で、原発誘致を進めてきた町政のトップを八年担ってきた現職の柏原重海氏が三選した。二九年前の計画浮上時から原発を拒みつづける同町祝島在住の新人、山戸貞夫氏が原発に依存する町からの転換を訴えたが、及ばなかった。

 得票は柏原氏が一八六八票、山戸氏が九〇五票。有効投票数に占める得票率はそれぞれ六七%と三三%だった。原発計画をめぐる“一騎打ち”の同町首長選挙は九回目。七回まで約六〇%で推移した原発誘致を進める候補の得票比率が今回、過去最高となった一方、投票率は過去最低の八七・五五%を記録した。

 柏原氏陣営は「原子力発電所誘致はエネルギー政策ではない。原子力発電所が生む財源、雇用、それによる地域の産業の活性化、このことで誘致している」(西哲夫上関町議)との発言から分かるとおり、必要としているのは原発ではなく、現行制度で原発がもたらす財源だということを選挙戦で明言した。

 そうした中で柏原氏は、これまで原発計画によってもたらされる交付金や中電からの寄付金で実施してきた町民の「生活支援を継続していきたい。そうしたことから『生きる』ということを基本姿勢として大切にやっていきたい」と訴えていた。

 一方の山戸氏は「原発交付金という、住民のいのちと生活を犠牲にするようなお金で上関町は幸せにはならない。福島原発事故の被災者から目をそらさないで。上関にも原発は作らせない」と訴えた。

「笑い」を語り、祝島島民を励ます永六輔さんと、歌手の加藤登紀子さん。(撮影/山秋真)

 福島原発事故後、「いのち」と「生きる」、ふたつのキーワードは全国各地で叫ばれるようになった。人間が健康かつ幸福に暮らすためにはいずれも不可欠であるにもかかわらず、上関町民はその二者択一を迫られる状況に置かれたとは言えないだろうか。

 そうした状況の下、従来の選挙と今回とで反応に変化は「ないね」(六〇代)、「ひとっつも、変わらん」(五〇代)との声も。

 なぜか。六〇代になる男性は投票日前日、次のように語った。

「自分の一票を原発誘致推進側に入れても(原発計画を)止める人はおるから関係なかろう、という人が結構おる。まして、二九年も原発計画を拒み、実際に現場で計画を止めてきた祝島(の人びと)がいる。最近は周りの自治体からも計画の凍結や一時中止などを求める決議が出とる。自分が柏原候補に入れても原発は建たんじゃろうと」

 つまり外から見るほどには、原発計画の是非が投票行動を決める要因になっていない可能性がある。「だから(選挙結果の)内容はそう変わらんかもわからん」。この男性はこう締めくくった。

 四月の統一地方選挙で上関原発反対を訴えて山口県議選に立候補し、現職二候補に僅差まで迫った国弘秀人さんも言う。

「数としては変わらなかったが、町民は原発作るのは難しいだろうと思っているのがほとんど。今回は、原発はいらない・もうできない、と思っている人も柏原候補に入れたと思う。原発の賛否を問うという図式はもう当てはまらない状況ではないか」

 今後の上関はどうなるのか。祝島に暮らす清水敏保町議は「今まで通り、原発が白紙撤回されるまでは頑張る」と話す。

 今年六月の議会で柏原町長は同町議の質問に答え「(原発への)推進・反対をこえた」話しあいをしたいと答弁。町長選挙が終わったらすぐ、原発なしの町づくりを考える検討会が開始予定という。一〇月には自然エネルギー先進地・高知県檮原町へ町議全員が視察に行くことも決まっている。

 投票日翌日、歌手の加藤登紀子さんと放送作家の永六輔さんが祝島を訪れた。島人との交流会で永さんは「笑いは効果ある闘い方。長く闘うためには笑って」と、長年それを実践してきた島人が今回も挫けないよう励ました。

(山秋真・ライター、9月30日号)

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