考えるタネがここにある

週刊金曜日オンライン

  • YouTube
  • Twitter
  • Facebook

【タグ】

社長出勤拒否まで起きた老舗出版争議の和解成立――新生三一書房が営業を開始

2011年9月2日3:22PM

 長く品切れとなっていた樋口健二さんの『原発被曝列島』が、八月二四日、新装改訂版として出版された。若狭、泊、下北から台湾まで、被曝者と原発労働を追ったルポに、3・11後を描く渾身の書き下ろしが加えられている。

 同書の版元の三一書房は、『人間の條件』(五味川純平著)などで知られる老舗出版社だが、一九九八年、三一労組(組合)役員らの解雇などを機に第一次争議が勃発した。

 争議は解決し、二〇〇六年、解雇された組合員らは職場に戻った。だが〇九年春、先の争議中に「スト破り」業務のため関連会社で雇用した編集者・高秀美さんが組合に加入したことに対し、岡部清社長が「報復」を宣言。彼女から仕事を取り上げ、賃金支払いも止め、第二次争議が起きた。

 それから二年余。岡部社長は会社に姿を見せず、新刊発行も停止。組合の小番伊佐夫委員長は、「原発の危険性に警鐘を鳴らしてきた三一が、福島原発事故が起きたこの状況下新刊も出せず、悔しかった」と振り返る。

 組合は出版労連などの支援で賃金支払い仮処分決定や、団交拒否に対する東京都労働委員会の救済命令を獲得。心ある出版人の仲介もあって岡部社長との交渉が進み、八月一一日、争議を解決する和解が東京地裁で成立した。

 和解内容は、旧三一書房の積極財産(取次口座、在庫など)は、組合員らが設立した新社が継承。「三一書房」という社名も引き継ぐ。負債は旧社(岡部代表取締役)が継承し、組合に解決金を支払う。履行後、組合は残る労働債権を放棄する――など。事業譲渡は、三一書房株主総会でも承認された。

 新生三一書房は、奇しくも、「脱原発」を掲げた城南信用金庫・九段支店の隣に事務所を構えて営業を開始。消えかかっていた社会派出版社の灯が、多くの人々の支えで、輝きを取り戻した。

 三一書房の再生は、倒産に近い状況から組合が主導し「事業譲渡」のスキームを使って働く場を確保した事例としても注目される。

 新社の取締役になった高さんは、「この二年、出版社にいながら本が出せないことが辛かったが、ようやく出発点に立てた。出すべき本を出せる喜びは、何ものにも換え難い」と話している。

(北健一・ジャーナリスト、8月26日号)

【タグ】

●この記事をシェアする

  • facebook
  • twitter
  • Hatena
  • google+
  • Line

電子版をアプリで読む

  • Download on the App Store
  • Google Playで手に入れよう

金曜日ちゃんねる

おすすめ書籍

書影

黒沼ユリ子の「おんじゅく日記」

ヴァイオリンの家から

黒沼ユリ子

発売日:2022/12/06

定価:1000円+税

書影

エシカルに暮らすための12条 地球市民として生きる知恵

古沢広祐(ふるさわ・こうゆう)

発売日:2019/07/29

上へ