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首相の肝煎り再生可能エネルギー法案の危機――修正協議で法案の骨抜き狙う自民党

2011年8月22日2:04PM

「日本の新しい産業革命」を唱える菅首相。(撮影/筆者)

 菅直人首相は七月三一日、長野県茅野市で開かれた「みんなのエネルギー・環境会議」の初会合に参加し、二度にわたり挨拶をした。

 経済産業省原子力安全・保安院のやらせ問題については「厚生相時代に経験した薬害エイズ事件と同じ構造」と指摘した上で、製薬会社の利益を尊重した厚生省(当時)と、原発の安全性を国民の立場でチェックすることが本務にもかかわらず、逆に推進する側の”お手伝い”をする保安院を重ね合わせ、原子力行政改革の重要性を訴えた。

 また菅首相は、震災の前後で原発に対する考え方が変わったと事故直後を振り返りながら、「(原発事故の発生確率が)たとえ一億分の一でも一回で地球が崩壊するようなリスクは取れない。原発に出来るだけ依存しない社会にする」と改めて脱原発の姿勢を強調した。するとテレビクルーはすぐに「原子力行政を厳しく批判した菅首相。辞任という二文字は全く頭にないようです」と実況中継をした。

 挨拶の後も首相は会場に残り、全体討論第二部「再生可能エネルギー」の議論に耳を傾けた。そして約一時間後、感想を求められると再び壇上に上がり、こう訴えた。

「(日本のエネルギーを)自然エネルギーで全てまかなうことも十分可能だ。日本の新しい産業革命につながっていく。今から二、三百年前は山にしば刈りに行ってやれていたのだから、自然エネルギーを新技術に転換すればいい」

 しかし討論では、菅首相が政治生命をかけると宣言した”肝煎り法案”である「再生可能エネルギー法案」が野党との修正協議で骨抜きにされる危険性が指摘された。パネリストの水野賢一参院議員(みんなの党)は、最前列の首相に呼びかける形でこう訴えた。

「自民党は電気料金が高くなるとして、電気の大口需要者のための骨抜き修正案を考えている。業界寄りの後ろ向きの修正ではなく、電力自由化・送発電分離・電力会社の地域独占打破をセットにした、電気料金を安くする政策を入れた前向きの修正をする度量を与党に求めたい」

 実際、与野党協議で骨抜きになる恐れについては複数の国会議員が指摘していた。阿部知子・社民党政審会長はこう話す。

「原子力損害賠償支援機構法案もそうでしたが、今は水面下で自公民の修正協議で合意するのが慣習になっています。再生可能エネルギー法案でも海江田万里大臣が『電気料金への賦課金の上限を〇・五円(キロワット/時)とする』と答弁し、この内容を法案に明文化する動きが自公民の担当者にあるようです」

 この上限「〇・五円」は、震災・原発事故前の試算を基にしたもので、二〇二〇年に原子力発電が四一・五%、自然エネルギーが一三・五%(水力を含む)が前提になっている。自然エネルギーの伸びは四%にすぎない。

 この上限を法案に書き込めば、再生可能エネルギーの促進にはならない。阿部氏は続ける。「菅首相が国際公約をした『二〇二〇年代のできるだけ早い時期に再生可能エネルギーの割合を少なくとも二〇%を超える水準』にすることは実現困難になるのです。しかも経済産業委員会は、知事をはじめ地方の声を聞かないまま審議を進めています。関西広域連合はこの法案審議について申し入れをしましたが、嘉田由紀子・滋賀県知事は『地方の声を国会にどう届けたらいいのか』と訴えていました」。

 山田正彦前農林水産相もこう話す。「電気料金が上がると言われているが、自然エネルギーは液晶パネルと同様、普及拡大によってコストが急激に下がり、コストが高騰している化石燃料に置き換わる節約効果も出てきます。七月二九日に江田五月環境相と面談し、〇・五円の上限について説明したところ、『そうなったら大変だ』と言っていました。海江田大臣は産業界の言い分だけでなく、総理が再生可能エネルギーを基幹エネルギーにすると言った意味をよく理解されるべきではないか」。

 集会後の記者会見で菅首相は「建設的な前向きの議論がなされた」と上機嫌だったが、再生可能エネルギー法案の骨抜きについては問題視していないのだろうか。

(横田一・フリージャーナリスト、8月5日号)

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