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原発推進の火を絶やさない原子力村の驕り――地下原発議連が勉強会を再開

2011年7月1日12:29PM

「やっぱり叩くんですか?」

 筆者の取材に対し、世論を気にするそぶりを見せたのは「地下式原子力発電所政策推進議員連盟」を約二〇年ぶりに復活させた衆議院議員の山本拓・事務局長だ。一九九一年にできた「地下原子力発電所研究議員懇談会」(後藤田正晴顧問、平沼赳夫会長)を墓から掘り起こした。「昔は研究会だったんですが、ここまで来たら、正直野党だし、時間あるし、政策してみようや」と改名し、五月三一日に勉強会を再開した。

 故後藤田氏に代わり顧問になったのは羽田孜、森喜朗、安倍晋三、鳩山由紀夫の歴代首相に、亀井静香、谷垣禎一、渡部恒三(以上、敬称略)と大物揃い。「(二〇年前)当時、原発への関心が高かった人は、自民党を飛び出している人ばかり」と山本氏は超党派議連となった経緯を語る。

 勉強会の講師は「F教授に電話したら『一昨年死にました』と。生き残りでちゃんとしゃべれる人がいなかった(笑)」が、(財)電力中央研究所(電中研)と(財)日本エネルギー経済研究所から講師を探し出した。

 福島原発事故の収束もままならない最中、大物議員の名で国会に原発推進の芽を残そうとする勢力とはいかなるものなのか。山本氏は「エネ庁(経産省資源エネルギー庁)とか保安院に電話したって、今あっち(福島原発)のことで手一杯」だと現時点での協力を断られたと言うが、もともと原発立地に行き詰まって、地下原発を推進したのは通産官僚だった。

1982年1月11日『読売新聞』「原発『地下方式』推進を 検討委が報告書提出」より

「原子力地下立地検討会」を一九七五年に発足させ、同時に(財)原子力工学試験センター、電中研、公益社団法人・土木学会が研究を始めた。「これ皆つながっているんですけどね」と山本氏が差し出したのは、研究成果を報じた一九八二年一月一一日の『読売新聞』記事だ。「原発『地下方式』推進を 検討委が報告書提出」と挿絵入り(図)で報じていた。

 しかしその後、「なんぼ言ってもマスコミは報道しない、東電は『地上でうまくいっているのに地下はやめてくれ』という中で、参加者が減り、研究者も減って、尻切れトンボになった」そうだ。

 それがよりによってなぜ今復活なのか。「福島原発では、放射線が大量に外に出た。それは我々が懸念していたことだ。原発を進めるなら地下がいい」と真顔で言う。脱原発ができるなら「それにこしたことはない」とは言うが、「太陽光、地熱、バイオマスといろいろ取り組んだが、どれもコストが高い」と、上昇中の原発コストは棚に上げる。それどころか「事故が起きても地下なら封じ込め効果がある」と、いまだ安全神話を “信仰” している。

 勉強会では平沼会長が「主要な電力は原子力で」と気勢を上げ、鳩山前首相は名前だけ出して欠席。民主党最高顧問である渡部恒三衆議院議員は五月半ば、福島県選出議員として学校使用基準二〇ミリシーベルトの見解を尋ねた際「最高顧問の立場上、個人的な見解は控えたい」(地元事務所)とのことだったが、原発推進の立場は鮮明だ。

 講師を務めた電中研の伊藤洋・研究顧問は、かつて内閣府原子力安全委員会の専門委員を務めた人物。同委員会は、班目春樹委員長他四名の存在で知られるようになったが、実は多くの専門審査会専門部会やその下部組織から成る。「非常勤なので名簿公開はしていない」(委員会事務局)が、議事資料で見ると、計三四委員会等に延べ五七一人の専門家が連なっている。しかしその一つ「緊急技術助言組織」は三月一一日以降一回も開催されず、「原子力事故・故障分析評価専門部会」も機能停止中で、五月二四日に「東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会」が別に設置された。原発事故対応はせず、原子力推進には役に立つのが従来の専門委員だったのだ。

 代替案のある技術のために、人命、健康、大地を奪う原発。その推進の火を絶やさない原子力村の不見識が、「やっぱり叩くんですか?」という驕りに満ちた言葉を発させるのか。それならば、驕れる議員たちを選んだ有権者に責任があり、次の選挙で落とす責務もまた、私たち有権者にある。

(まさのあつこ・ジャーナリスト、6月10日号)

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