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自衛隊内性的暴行事件で勝訴――女性自衛官への性暴力認める

2010年8月17日6:59PM

「勝訴判決」に支援者らは歓喜した。(提供/女性自衛官人権裁判支援の会)

七月二九日午後、札幌地裁大法廷は、原告の好きなオレンジ色を身につけた人々で満席になり、法廷の外は中に入りきれない人であふれていた。現職自衛官が提訴した性暴力に関する国家賠償請求事件に対する橋詰均裁判長の判断を聞こうとする人たちだった。

判決は、深夜勤務時間内に飲酒の上に起こした性暴力を「合意の上のこと」とする加害者の主張は「信用できない」、「階級の上下関係を利用し、周囲から隔絶された部屋で女性の抵抗を抑圧した」と認定。事件後、普段と違う原告の行動を不審に思い、話を聞いた上司らの対応については、被害を受けた側に立った適切な保護・援助の措置を取らなかったこと、それどころか被害を訴えた原告を退職に追い込もうとしたことを違法な処遇と明確に判断した。

加害者の性暴力に対する損害賠償を二〇〇万円、監督者として義務を尽くさなかった上司らの過ちに対する慰謝料を三〇〇万円と認定(八〇万円は弁護士費用)した。

判決は、被害者の供述の一部に変遷や不合理と思われる点があっても、「性的暴行の被害を思い出すことへの心理的抵抗が極めて強いこと」「共感をもって注意深く言い分に耳を傾けないと、客観的事実と異なる説明や最も恥ずかしいと思っている事実を伏せた説明をしてしまうことはままある」「原告への対応は、もっぱら男性上司や男性警務隊員によって行なわれており、原告が性的暴行を冷静に思い出したり、記憶を言葉で説明することができなかった可能性が高い」と指摘。また、自衛隊組織の特性を「隊内の規律統制維持のため隊員相互間の序列が一般社会とは比較にならないほど厳格で、上命下服の意識が徹底した組織」だとして、原告が「上位者である加害者に逆らうことができない心境に陥ることが不自然ではない」とした。

また、職場には、(1)被害者が心身の被害を回復できるよう配慮すべき義務(被害配慮義務)、(2)加害行為によって当事者の勤務環境が不快となる状態を改善する義務(環境調整義務)、(3)被害を訴える側がしばしば職場の厄介者として疎んじられさまざまな不利益を受けることがあるので、そのような不利益の発生を防止すべき義務(不利益防止義務)を負う、と事後の配慮義務について積極的かつ具体的な判断基準を示して、それに対する違反があったと認定した。

慰謝料を被害事実とその後の対応に分けて判断し、しかも後者により多くの金額を認めた判決は、性暴力被害の実態が事件そのものにとどまらず、その後の対応がさらに重大な問題を引き起こすことや所属する組織の責任の重大さを示しており、賠償水準の引き上げにもつながる画期的判断となった。

勝訴を確信し「絶対泣かない」と言っていた原告だったが、途中から嗚咽をこらえきれず、涙は傍聴席にも伝播し、閉廷後、大きな拍手が鳴りやまなかった。

航空自衛隊通信基地という一般社会から隔絶した一八〇人のコミュニティ。その内、女性はたった五人、しかも二〇歳(当時)の原告が最年長という集団内部で起こされた事件だった。

在職のまま裁判を起こし、その後前代未聞の更新拒否により退職を余儀なくされた二四歳の原告は、報告会で「素晴らしい判決でとても嬉しい。未だ誰も歩いたことのない道を歩くのは大変なことです。立ち止まりそうになった時には、ここにいる弁護団や支援する会を始め、多くの人たちがいたからこそ、今日の判決を迎えることができました。自衛隊においても人権が保障される方向に大きく変わってほしいと願っています。私を支えてくれた人たちに最上級の感謝を伝えたいと思います」と話した。

「裁判官は現場に足を運び、原告の気持ちになって事件を想像し、血の通った判断をしてくれた。司法に、まだ正義と希望があったと感じた」とは、代理人の一人、秀嶋ゆかり弁護士の言葉。

支援者たちは、国側が控訴しないよう、菅直人総理大臣、北澤俊美防衛大臣、千葉景子法務大臣に対し、八月一二日の控訴期限までに多くの人たちが働きかけることを求めている。

(丹羽雅代・アジア女性資料センター)

※編集部注)国側は控訴を断念、8月12日に判決が確定した。

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