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放射能被害に冷淡な政府をあてにせず独自に動く市民――60人の親子が関東から初の“集団疎開”

2011年8月12日2:54PM

 夏休みに入り、首都圏では放射能から子どもたちを守ろうと九州などへ疎開する親子が急増している。七月二六日には関東から初の集団疎開となる六〇人の親子が長崎県東彼杵町へ向けて出発した。

「東京の放射線量はチェルノブイリの立ち入り禁止区域の線量と同レベルにあり、子どもたちの安全を考えると一刻の猶予もないのです。しかし、行政による避難対象区域以外の地域からの自主疎開に対しては支援も補助もありません。疎開先に血縁者でもいない限り、経済的な負担も大きく疎開も困難。そこで夏休みの間だけでも、参加者には最低限の負担で子どもたちが安心して過ごせるような退避計画を企画したんです」

 こう話すのは、主催者の島川浩二さん。その言葉通り、参加者の負担は東京~東彼杵町の往復の交通費のみ。宿泊所や生活必需品、食材、寝具などは東彼杵町が無償で提供する。退避期間は八月末まで。東京・北千住でバーを経営する島川さんだが、企画立案に当たっては自身の疎開経験によるところが大きかった。

「福島第一原発で爆発が起きたとき、すぐにメルトダウンだと直感して、翌日には着の身着のままで家族や知人たちと生まれ故郷の長崎へ逃げたんです」(島川さん)

 疎開中は、長崎県の田舎暮らし体験プログラムなどを活用して、経済的な負担を少しでも軽減するよう努めた。また今後、九州へ疎開者が殺到することを予想して、長崎市など自治体に対し受け入れ態勢の準備を働きかけた。

「われわれは真っ先に逃げ出したわけだから、これから疎開する人たちの役に立たなきゃ、ただの臆病者ですからね(笑)」と島川さん。

 こうした疎開支援の活動から着想を得たのが、過疎に悩む高齢者の人口比率が高い限界集落への集団疎開プランだった。東彼杵町のように農業が盛んであることが前提になるが、疎開者に対して食と住を無償で提供してもらう。町側のメリットとしては、疎開を受け入れることで地域のPRになるだけでなく、将来的には疎開者の定住も期待でき、人口減少に歯止めがかけられるというわけだ。

 募集は参加者が殺到することが予想されたために、口コミで行なわれた。都内在住の網屋直美さん、詩音さん親子も、ツイッターやミクシーでの「ママ友」を通じて退避計画を知り、参加したという。

「学校も理解はあるし、娘がいじめられたりすることもないけれど、内部被曝を恐れて娘に弁当を持たせたりする私のような存在は、学校のママたちの間では浮いています。私たちはバーチャルなネットワークを通じて、悩みを打ち明けたり励まし合ったり、情報交換を行なっているんです」(網屋さん)

 シングルマザーの網屋さんは放射能被害が及ばない九州への移住も視野に入れており、今回の参加がひとつの契機となれば、と考えている。「東京での仕事を辞めて、地縁も血縁もない場所で生活していくことが可能なのかを東彼杵町で見極めたい」と網屋さんは話す。

 今回の退避計画をモデルケースに、避難対象区域以外の地域からの自主疎開が支障なく行なわれることが期待されるが、島川さんによると「越えなければいけないハードルも多い」という。  

 一つは、決裁までに時間がかかってしまうという役所ならではの形式主義。さらに、これまた自治体ならではの高コスト体質。たとえば寝具や生活必需品などは新品である必要はない。しかし、地元の業者を絡ませるため新品を調達せざるを得なくなりコストがかさむ。コストがかさめば、疎開を受け入れるのに躊躇する自治体も出てくるだろう。持続可能な集団疎開プランであるためには、参加者にも自治体にもできるだけ負担をかけないことが必須だ。

「もともと、政府は放射能被害に対して非常に冷淡。今回の原発事故に限らず、広島・長崎の被爆二世や三世への対応を見ても明らかです。国は何もしてくれません。これからは個人と町や村といった小さな単位の自治体が手を組んで、行動を起こしていくべきなんです」(島川さん)

(牧隆文・ライター、7月29日号)

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