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広島大学で“大人のいじめ”2──対応しない大学当局
(明石 昇二郎)

広島大学原爆放射線医科学研究所

広島大学の深刻ないじめについて前回報告した。にわかには信じがたいが、事態はさらに悪化する。

 

部屋割りの見直しがアカハラのきっかけ

H教授とQ准教授らのトラブルは2011年8月、H氏が広大原医研の教授に着任したことに伴う「部屋割りの見直し」で、H教授の案にQ准教授らが疑問を呈したことから始まっていた。

新たな上司となったH教授からQ准教授らは、それまでQ氏ら2人の准教授が使用していた部屋を明け渡し、大学院生らと大部屋(1人あたり約2平方メートル)を使用するよう言い渡される。それでは教育・研究活動が不可能になるとして、Q准教授らがH教授の案を拒否し、その調整に手間取っていると、13年4月末からゴールデンウイークの休み明けにかけて、Q准教授の研究資料や重要書類、実験機材が勝手に部屋から持ち去られ、進めていた研究を無理やり中断させられたばかりか、新たな研究もできなくなった。

以来、Q准教授はH教授への“敵対勢力”と見なされ、広大原医研内で研究することを妨害されてきた。

Q准教授はゲノム科学の研究者であると同時に、薬毒物や放射線の生体影響の研究者でもあり、定年で退官するまでの最後の10年間を研究の総仕上げに費やすべく、研究に打ち込んできた。それが、H教授が広大原医研に来てからの5年間は全く進められなくなる。研究者生命にも関わる非常事態であり、H教授による研究妨害や、前掲のH教授らによる遺伝子組換え生物等使用実験室での飲食行為等について、Q准教授は大学当局に通報する。

H教授が着任して以降、広大原医研の雰囲気は一変した。Q准教授だけでなく、Q氏の同僚までが同様の嫌がらせを受け、退職者まで出るようになる。

子どもじみた嫌がらせを繰り返し、遺伝子組換え生物等使用実験室での飲食を注意しても意に介さないH教授に不信感を抱いたQ准教授は、なぜ彼はそんなことをするのかと考え、改めてH氏について調べてみることにした。

その結果、広大原医研に配属される以前のH氏は、同大の心臓血管生理医学教室に属し、同大付属病院で循環器系の疾患を担当していた臨床医であり、いわば“畑違い”の人だったことが判明する。その過程で、H氏の「業績の水増し」行為に気づいたのだった。驚いたQ氏は、直属の上司でもあるH教授の不正を、その手口とともに大学当局に告発した。

告発したQ准教授が“クビ”を通告される

すると、17年3月に任期の更新を控えていたQ准教授の再任を妨害する動きが表面化する。16年9月、広大原医研の松浦伸也所長が委員長を務める人事交流委員会からQ准教授に対し、同氏の業績評価を「C評価」(再任不可)にしたとする通告が出されたのである。

上司の不正を告発したことが「再任不可」の理由とされたわけではない。しかも、直接手を下したのはH教授でなく、表向きは「人事交流委員会」が判定したとの体裁になっている。ただし、H教授はQ准教授の「再任不可」判定に全く異存はないようだ。この判定に上司として反対した形跡は見られない。

Q准教授は、教育活動や外部資金獲得、社会貢献、学内活動等を点数化した総合評価では「A評価」(優秀教員)となる。そんなQ准教授が再任不可とされた唯一の理由は、Q氏が「研究をしていないから」というものだった。

Q准教授の研究再開に対して何ら手を打たず、研究所内の混乱を放置してきたのは他ならぬ上司のH教授と松浦所長であり、H教授および松浦所長はこの判定と無関係であるどころか、大いに関係がある。だが、H教授と松浦所長が揃って出席していた16年10月の広大原医研教授会では、H教授による研究妨害は何ら問題視されず、Q准教授の「再任不可」判定は覆らなかった。

研究をできなくしておきながら、「研究していない」との理由で再任を妨害し、広大原医研から追い出す――。教授という立場を利用して、H教授とQ准教授のトラブルなど何もなかったかのように繕い、部下であるQ氏だけに問題があったとするH氏のやり方は、フェアでないばかりか、教育者の名折れだ。

ちなみに、厚生労働省は「職場のパワーハラスメント」を次のように定義している。

「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」

H教授がQ准教授に対して行なった「部屋割りの見直し」や「研究妨害」「混乱放置」「再任不可工作」のいずれも完全にアウトであり、パワハラであるのは明白だった。それ以前に、小学・中学教育や高等教育の手本となるべき「学問の府」にあるまじき、幼稚で恥ずべき“大人のいじめ”である。

このような異常極まりない状況に対し、Q准教授はまず、広島大学の教職員組合に相談した。同教組が大学当局に団体交渉を三度、申し入れたところ、大学側は3回とも団交を拒否する。続いて、広島県労働委員会にも「広島県個別労働関係紛争のあっせんに関する条例」に基づく斡旋を申請したが、いまだ救済の目途はついていない。

その一方で、H教授のパワハラや不正に関する告発は棚晒しにされる。

すべて“なかった”ことにする広島大学

広島大学では「広島大学学則」に基づき「ハラスメントの防止等に関する規則」が定められ、相談窓口が設けられている。Q准教授らがその窓口に相談し、同大のハラスメント調査会が設置されたのは13年6月のことだった。その後、同年8月にハラスメント調査会による関係者へのヒアリングが行なわれ、翌9月と10月には現場確認などが行なわれる。だが、大学側の対応はそこまでだった。

大学側がパワハラへの対応をしないため、研究を再開できないQ准教授らは14年2月、H教授や広島大学を相手取り、原状回復などを求めて広島地裁に提訴した。しかし、大学側はこの提訴を理由に、ハラスメント調査会の調査結果の公表を中止。広大原医研内の混乱も放置され、H教授による「職場環境を悪化させる行為」が改善されることはなかった。当然、Q准教授の研究も再開できていない。

さらには、遺伝子組換え生物等使用実験室での飲食行為にしても、
「大腸菌を用いた実験が行われたことは認められるが、それが遺伝子組換え実験であったと認めるには至らなかった」
との理由で、広島大学当局はH教授らをお咎めなしとした。遺伝子組換え実験をやっていなければ、同実験室で飲食しようがお構いなしだというのである。

だが、H教授らの「大腸菌実験」と同時期に、別の研究者が同実験室で遺伝子組換え実験をやっていたとの情報が、当方まで寄せられている。事実とすれば、H教授らの飲食行為等は法令違反となるので、この場を借りて大学当局に対し、改めて事実関係を精査するよう強く要請する。そもそも、遺伝子組換え生物等使用実験室内で飲食をすること自体が甚だ非常識なのであり、広島大学が疑念を持たれぬためにもこの際、飲食全面禁止にすることをお勧めしておく。

Q准教授は語る。
「大学当局は、H教授らが大腸菌を使用していたのは『部屋の清浄度の調査のため』で、遺伝子組換え実験ではなかったと説明しています。しかし当時の実験室内には、大腸菌を使った組換えDNA実験に用いる資材や、組換えDNA実験を実施すると発生する特徴的な形跡がいくつも残っていました。彼らは『部屋の清浄度調査』とは無関係な、大腸菌のコロニー(細胞塊)をとって増やすことや、大量液体震盪培養もやっていました。大学はきちんと調査したのでしょうか。
H教授は、ウイルスを用いた細胞への遺伝子導入実験(P2実験)に必要な『安全キャビネット』を、私たちから強制的に取り上げました。しかし、H教授らが大学に届け出ていた組換え生物等使用実験はP1レベルの動物実験だけだったことが、その後の情報開示で判明しています。必ずしも使う必要のない安全キャビネットをH教授らが独占していたことには、私たちの研究を妨害する以上の意味はありません」

H教授の「業績水増し」行為も不問に付されている。Q准教授が広島大学の公益通報窓口に異議を申し立てたところ、
「広大には公益通報に対する異議申立制度がないため、受け付けられない」
とされた。教師にいくら相談したところで解決できない「小学生のいじめ」とそっくりである。

そして16年12月27日、広島大学はQ准教授の再任を不可とし、17年3月末をもって任期満了退職とする、越智光夫学長名の通知をQ氏に出した。

だが、Q氏を大学から追い出すことに成功したとしても、H教授の「業績水増し」行為がなかったことになるわけではない。

わざわざ公益通報の窓口を設けておきながら、その実態は告発者の炙り出しと大学からの排除にしか使われないとするならば、大学当局が不正の片棒を担いでいるのと同じだ。大学が不正に目をつぶったことで、国費からH教授の研究費が引き出されていれば、大学も詐欺の共犯ということになる。その被害者は言うまでもなく、血税を不正に使われた国民だ。

筆者は広島大学を取材した。
〈つづきは3月13日ごろに配信予定です〉

(あかし しょうじろう・ルポライター、1月27日号)

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