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稲田防衛相がすべきは制服組トップの処罰(佐藤甲一)

2017年3月9日7:23PM

安倍晋三首相が任命した閣僚の適格性が問われている。いわゆる「共謀罪」をめぐる金田勝年法相のお粗末な国会対応の問題、さらに南スーダンでの国連平和維持活動(PKO)への自衛隊派遣に関わる稲田朋美防衛相の一連の対応である。

両大臣の答弁をめぐってたびたび国会審議が中断する事態に及び、野党4党は2人の辞任を求めているが、今の国会の勢力図からみるとそこまで追い込むのは容易ではない。だが、ここに安倍政権にとっての構造的な問題が深層にあることに気がつかねばならない。

問題の本質は安倍政権という「一強多弱」政治が生み出した官僚機構の増長と、それを本来制御すべき「政治的抑止力」の劣化なのである。ならば単に担当大臣の資質が欠け、安倍首相の任命責任を問うという、俗人的な責任論を展開する民進党などの野党の追及は歴史的な視座からの問題意識に欠ける。

本稿ではより重大な自衛隊のPKO「日報」問題に絞りたい。この件では三つの問題が明らかになっている。(1)南スーダンでの活動を記録した「日報」の存在を隠していた、(2)「日報」に書かれていた「戦闘」という表現を憲法上の問題にかかわるとの判断から大臣答弁では「武力衝突」と言い換えた、(3)自衛隊当局が稲田氏に、「日報」に「戦闘」と書かれていたことを1カ月にわたり報告しなかった、の3点。いずれも極めて重大な問題である。

(1)は自衛隊組織の「隠蔽体質」が明らかになっており、(2)では、南スーダンへの派遣は憲法違反の疑いがあることを自ら語っているのに等しく、直ちに派遣を取りやめるかどうかの判断を下さなければならないはずである。そしてなにより不可解なのは(3)だろう。

稲田大臣は(1)が明らかになった段階で、自衛隊トップに公開を指示していた。調査に手間がかかるとの理由で自衛隊幹部が公開せず、大臣に1カ月も報告もしていなかったことは明らかに「抗命」といえまいか。自衛隊内部の「抗命罪」であれば、内規によって相応の処分で済ませることであろうが、事は文民の大臣と制服の自衛隊組織トップの間での「抗命」である。旧帝国陸海軍の暴走という戦前の反省に立ち、戦後日本が武力組織である自衛隊を創設するにあたって定めた根本原則である「文民統制=シビリアンコントロール」に明らかに抵触する。

そのことに気づかないのなら、稲田大臣はまさに資質に欠ける。本来なら制服組トップを処罰したうえで、統制力欠如の責任をとって辞任すべきだろう。国会での野党の追及を逃れれば済むという次元ではない。その点では、世論がこの問題に注ぐ関心の薄さもまた、深刻である。

安倍政権の下では菅義偉官房長官らが霞ヶ関の高級人事を動かすことで、官僚機構を把握しているともいわれている。だが水面下では、力不足の大臣の眼を掠め、官僚組織の勝手な「自己保全」が行なわれていると思わざるを得ない。文部科学省の「天下り問題」しかりである。圧倒的多数を占めているとはいえ自民党に量に見合った質の伴った政治家が揃っているか、といえば疑わしい限りである。盤石に見える安倍政権も一握りの練達な政治家に支えられているにすぎず、一歩誤れば、「砂上の楼閣」になりかねない。

(さとう こういち・ジャーナリスト、2月24日号)

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