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NHK経営委員会は全会一致で新会長を選出――「籾井再任」阻止した市民の声

NHK会長の選任機関である経営委員会は12月6日の会合で、続投に執着した籾井勝人現会長を再任せず、現経営委員兼監査委員の上田良一元三菱商事副社長を、全会一致で新会長に選出した。

今回、NHKの政治権力からの自立をまったく理解しない妄言を確信犯的に繰り返してきた籾井氏の再任など、常識的にはあり得なかった。

籾井氏が再任されなかった最大の要因を挙げるとすれば、それは視聴者、市民の良識だ。全国の21の市民団体は8月11日から連名で、(1)籾井現会長を絶対に再任しない(2)会長選考過程に視聴者・市民の意思を広く反映させるよう、会長候補の推薦・公募制を採用する――等を要望事項とした賛同署名を呼びかけ、12月6日までに6次にわたって累計3万5582筆の署名簿を経営委員会に提出した。

また、視聴者の「メッセージ」も、署名簿に添えて経営委員に届けた。そこには、「私たちは、ずっと正しい情報を伝えられてこなかったのではないか、いつも政府のフィルターを通しての情報しか得られていなかったのではないか。それにメディアは奉仕してきたのではないか」(兵庫県)、「報道の果たすべき役割はとてつもなく大きく、時代を変える力を持っています。それだけに、責任も重大です。報道機関としての誇りをどうかかなぐり捨てないでください。権力に自分を売り飛ばすな! 人間であり続けて!」(埼玉県)といった、NHKのみならず報道機関全般に対する期待と批判が熱く込められていた。

こうした市民の訴えが、「籾井不再任」をもたらした要因の一つであることは間違いないだろう。

一方、次期会長に上田氏が選任されたことについて、「4代続けて財界出身の会長」「経営委員から会長を選ぶのは異常」といった指摘がある。出身母体からして、財界人の資質と公共放送のトップに求められる資質には、利益相反があるとする見方も否定できない。

【上田新体制に突きつけられた課題】

この点は、会長就任会見で上田氏がどのような抱負を語るのか注視されよう。ただ、経営委員から会長への転任は先例のない「異例」の人事ではあるが、「異常」と断定するのは早計だ。

それよりも、上田氏がこの5月に函館市で開かれた視聴者と語る会で次のような発言をしたことに注目したい。

「受信料は、契約を締結する義務は法律で定められていますが、支払い義務は負っていません。支払いを義務化するということは、『支払いの義務を負わせて、支払わない人に対して罰則を設ける』ということであり、国の力で受信料を徴収するということになりますので、国の影響が及んでくるという懸念があります」

「放送、ジャーナリズムが国家権力に追随するような形というのは、必ずしも望ましい形ではありません」――

こうした姿勢が今後貫かれるかどうかを、引き続き視聴者、市民は監視する必要がある。さらに、籾井現会長が退場した後の、NHK職員の自立と矜持にも注視したい。

前出の「メッセージ」の中には、「NHKはジャーナリズムの目的『権力の監視』を怠っている。というか、自分たちが権力者になってしまっている。あんな会長になぜ内部から立ち向かわないのでしょうか。つまらないエリート集団になって堕落しています。自ら会長を追い払う気概を見せて下さい」(東京都)という一文がある。

NHKが本当に「国家権力に追随しない」「ジャーナリズム」になれるのかどうかが、今こそ問われている。これからは、もう「会長が籾井さんだから」という言い訳は通らない。NHK職員の一人ひとりが、予想される政府・与党の介入や圧力にどう対処するのか、そこで「人間であり続け」られるのかどうかという問いかけが、上田新体制の下でも視聴者、市民から厳しく突き付けられていくだろう。

(醍醐聰・東京大学名誉教授、本誌取材班、12月23日号)