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「トモダチ作戦」の健康被害裁判で東電支持の日本政府――米国兵補償で国内影響懸念

2016年10月26日12:31PM

原告のひとり、スティーブ・シモンズ元海軍大尉(前)。(提供/エィミー・ツジモト)

原告のひとり、スティーブ・シモンズ元海軍大尉(前)。(提供/エィミー・ツジモト)

本誌9月9日号で、「トモダチ作戦」に参加した米国兵士が、東京電力に健康被害への賠償を訴えた、米国の高等裁判所における第1回口頭弁論(9月1日)で、日本政府が「法廷助言人」として書面を提出していた事実に触れた。

ラテン語でAmicus(友)・Curiae(法廷)と呼ばれる「法廷助言人」とは、法廷訴訟に直接参加はしないが、訴訟の内容に関わる特定の見解を有する者が、裁判官に対し助言となる見解を書面陳述するもの。日本政府はこの法廷助言人の立場で、東電の主張を支持する陳述を行なった。日本国内の裁判にもかかわる重要な陳述なので、少し詳しく内容を紹介する。

日本政府はまず、東京電力の主張に沿って、米国内での裁判の必要性を認めないとする。米国で裁判が行なわれると、米国の判決が日本の原発補償制度と異なる結果となり、「補償問題」に矛盾が生じる可能性を懸念するというのだ。具体的には補償金額や内容に「相違」が生まれた場合、日本政府などが3・11以後に設立した「原子力損害賠償・廃炉等支援機構」が維持できなくなる可能性があると述べる。

陳述が示す日本政府の懸念の一つは、福島原発事故による放射能放出と健康被害との因果関係の認定であり、もう一つは、それに伴う損害賠償補償額の増大である。

たとえば、日本政府はいまだ3・11後のがん発症と低線量被曝との因果関係を否定する。このため、すでに7人の死者を出した「米兵」たちの遺族に対する「賠償」を認めた場合、日本で因果関係・損害賠償を認めていないこととの矛盾が生じることになるのである。

一方、原告側は、東電と日本政府が主張する日本での裁判管轄権が決定すれば、訴訟は事実上、終結してしまうと反論する。450人以上の兵士のうち7人はすでに死亡、残る多くが様々な病状に苦しむ中では、訪日どころか滞在できる身体的な余裕はない。しかも長引くであろう裁判を考えれば、とても費用捻出の余裕などあるはずもないのが現状だからである。

【日本の裁判は原告に不利】

この「法廷助言人」としての日本政府の陳述に対して、原発裁判に数多く関わる河合弘之、海渡雄一両弁護士が、第1回口頭弁論後、ただちに米国原告弁護団に「親書」を送付。訴訟が日本の裁判所に提起された場合に起こる日米の訴訟制度の相違と問題点、長期に及ぶ裁判がもたらす結果などについて客観的に記述した。

具体的には、(1)賠償額に比例して多額の印紙代が必要となる、(2)原告側の「原告らの治療のための基金を設立せよ」との請求も、日本の法律に「基金を設立せよ」といった定めがないため、日本ではあり得ない判決、(3)現在の原告団の代理人弁護士は日本での弁護士資格がない、(4)日本での裁判は訴状から始まりすべてが日本語で行なわれる、(5)日本の裁判制度にディスカバリー(証拠及び情報開示制度)もデポジション(弁護士事務所等での証言録取制度)もない、(6)米国には「米国の原発の事故による損害賠償請求訴訟は米国の裁判所に提起しなければならない」という法律があるが、同様の法律は日本にはないため、国際法上の相互主義の効力が及ばない、などである。――明らかに、原告団に不利なことばかりで、公平・公正な裁判が保証されない。

いうまでもなく、原告弁護団が日本の裁判所でのこうした諸事情を知るはずもない。それを承知で東電は、あくまでも日本での裁判を主張、それを支持する日本政府。実に誠意のない対応であり、ここには、「トモダチ作戦」への敬意も謝意もまったく見出せない。

小泉純一郎元総理が、「トモダチ作戦」参加時の被曝によって若者の生命と健康が蝕まれている現状に心を痛めて、米国を訪問したことは記憶に新しいが、その行動への批判の声があるという。なぜフクシマではなく米国なのか、と。

日本の人々は元総理の誠意ある行動を、なぜ、日本自身に危機を告げる「炭鉱のカナリア」への支援として理解できないのか。その先見の明なき偏狭な心に、身のすくむ思いがする。

(エィミー・ツジモト・米国在住ジャーナリスト、10月14日号)

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