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砂川事件国賠訴訟、最高裁判決を米公文書に基づき論証 
「日米合作の政治判決」だ

片岡伸行|2021年7月16日5:09PM

陳述をした武内更一弁護士(中央)。第2回口頭弁論後に衆議院第2議員会館での報告集会。(撮影/片岡伸行)

「砂川事件」の最高裁判決(1959年12月16日)は時の日米両政府と最高裁長官の合作による「不公平な違憲判決だった」――として、同判決で「米軍基地侵入」の有罪が確定していた土屋源太郎さん(86歳)ら3人が国を訴えている国家賠償請求訴訟の第5回口頭弁論が6月30日、東京地裁(大嶋洋志裁判長)で開かれた。原告側は開示された米国の公文書に沿って「最高裁長官の政治力に負う判決」だったことを論証する陳述をした。

米軍立川基地拡張の抗議行動で基地内に立ち入ったとして学生らが「日米安保条約に基づく行政協定に伴う刑事特別法」違反の疑いで逮捕・起訴された砂川事件(57年)。東京地裁の伊達秋雄裁判長は59年3月30日、「駐留米軍は憲法9条違反」として被告人7人全員を無罪にした=伊達判決。安保条約改定協議をひそかに進めていた日米両政府は同判決に危機感を抱き、敗戦後日本の針路をめぐる世論への影響を恐れていた。

【最高裁判決の裏舞台】

同日の口頭弁論で原告代理人の武内更一弁護士は、判決直後から日米両政府と当時の田中耕太郎・最高裁長官の3者が連携し「伊達判決の破棄を画策した」と指摘。伊達判決から最高裁判決までの約9カ月間に、米国駐日大使ダグラス・マッカーサー2世らから米国務省長官に宛てた電報や航空書簡のうち計17点の訳文を紹介。これらは米国公文書館で日本のジャーナリストや研究者が2008年以降に発見した。59年当時の首相は岸信介、外相は藤山愛一郎。

武内弁護士は「マッカーサーと藤山は判決直後から緊密に協議し、判決翌日(3月31日)に高裁を飛び越して最高裁に跳躍上告することをマッカーサーが提案。同日の公文書には〈藤山は全面的に同意すると述べた〉と記されている」とし、「伊達判決からわずか4日後の4月3日に日本政府はマッカーサー提案どおりに〈直接最高裁に上告することに決めた〉と発表した。早急に最高裁の最終判断を出させて伊達判決を覆させることを企図してのことだった」と述べた。

砂川上告審が同年6月に、田中長官が裁判長を務める大法廷に回付されると、マッカーサーの働きかけは藤山らから田中に向く。武内弁護士はマッカーサーと田中との密談の内容を伝えた59年8月から11月まで計6点の米公文書の要旨を次のように紹介した。

「8月3日発送の航空書簡には〈判決はおそらく12月だろう〉〈争点を事実問題ではなく、法的問題に閉じ込める〉〈審理は実質的な全員一致を生み出し(略)少数意見を回避する〉などと述べた田中の発言が記され、11月5日の書簡には〈伊達判決が判断を下したことは、まったく誤っていたのだ〉との田中の発言が記されている。田中はマッカーサーと頻繁に会い、大法廷の裁判官の考え方を紹介し、審理状況や判決内容の見通しなどを明示的または黙示的に伝えていた」

最高裁判決はそのとおりになった。判決翌日(12月17日)の電報でマッカーサーは、田中の〈手腕と政治力〉を高く評価し〈金字塔を打ち立てるもの〉との賛辞を送る。武内弁護士はこれらの経緯から「砂川上告審は憲法37条で保障する『公平な裁判所』でなかったことは明らか」とした。

大嶋裁判長は一連の米公文書を米国公文書館に確認を求める「調査嘱託」の状況について「訳文を裁判所から発出した。最高裁を経由し、外交ルートを通じて米国に送られる」と告げた。最高裁も外務省も砂川最高裁判決をめぐる“疑惑”の当事者だが、自国の公文書は隠蔽・改竄しても、他国の公文書の確認まで妨害するのは困難だ。次回は11月1日午後2時から東京地裁103号法廷で。

(片岡伸行・記者、2021年7月9日号)

 

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