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日本学術会議「任命拒否撤回」求めた97歳元会員の思い

片岡伸行|2021年5月17日1:19PM

提出署名に際し文部科学省で記者会見する増田善信さん(左端)。(撮影/片岡伸行)

「戦前とあまりにも似てきつつある。戦時中のような〈不合理な日本〉を作ってはならない」――。

菅義偉首相による、日本学術会議法に反した形での任命拒否状態が続いている問題で、戦争体験を持つ97歳の元学術会議会員が一石を投じた。

原子爆弾投下後に降った「黒い雨」の研究で知られる元気象庁気象研究所室長の増田善信さんは4月19日、(1)菅首相が拒否した新会員6人の任命、(2)政府による日本学術会議の「あり方」に関する要請の撤回――の2点を求めるオンラインでの署名6万1672人分(16日時点)を内閣府に提出した。それに合わせ、東京・霞が関の文部科学省記者クラブで井原聰・東北大学名誉教授(日本科学者会議事務局長)、小寺隆幸・元京都橘大学教授(軍学共同反対連絡会事務局長)、権上かおる・酸性雨調査研究会事務局長らと会見を開き、署名に託した思いを語った。

【「とうとう来たか」】

昨年10月、日本学術会議の推薦した105人の新会員のうち、安保法制(戦争法)などに反対する6人の任命を菅首相が拒否したことが『しんぶん赤旗』で報じられると、増田さんは「とうとう来たか」という思いを強くしたという。

増田さんは第2次世界大戦の末期、海軍少尉として島根県の出雲大社近くにあった「大社基地」で気象観測の任に就き、1945年8月6日~8日の3日間、「沖縄特攻」に出撃する兵士に沖縄までの航路と天気予報を伝えて送り出した。

「その時、心の中では〈みすみす死ぬことがわかっているのに〉と思いましたが、声には出しませんでした。当時は『今に神風が吹くから必ず勝つ』と叫ばれていました。私は気象の専門家ですから、そんなバカなことは起こるはずがないと確信していましたが、一切口外しませんでした。このような不合理なことを実際に体験してきたのです」

戦時中の学術研究会議が推薦制から内閣による任命制になり「すべての科学者が戦争に動員された」歴史の一端や、中曽根康弘首相当時の83年にそれまでの「公選制」が廃止され「推薦制」になった経緯も紹介。増田さんは78年から83年まで2期5年、公選制で選ばれた最後の学術会議の会員だ。「そして今回の任命拒否。安保法制も変えられ、『敵基地攻撃』まで叫ばれるようになってきた」とし、「私がこの署名運動を立ち上げた背景にはこの危機感があるのです」と述べた。

3月1日からウェブサイトの「Change.org(チェンジ・ドット・オーグ)」で署名を呼びかけると、2カ月足らずで6万人超の署名が集まった。

増田さんは「今回の任命拒否には法的根拠がまったくない。まさに政府や内閣総理大臣がやってはならない行為。不合理の極みと言わねばなりません。絶対に認めるわけにはいかない。直ちに撤回すべきだ」と訴え、軍事研究への危惧とともに「会員の任命拒否をしたままで学術会議のあり方の変更を要求する――まさに学術会議の変質を狙ったもの」と指摘した。

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