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【解説】「少女像」河村名古屋市長発言、問われる公権力による制約

臺宏士|2019年8月2日9:30AM

名古屋市東区の愛知芸術文化センターで開かれた、国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」の開幕式=2019年8月1日。(撮影/臺宏士)

愛知県美術館(名古屋市)で展示されている「平和の少女像」(平和の碑)をめぐり、河村たかし・名古屋市長が同像の視察を表明した問題は、この数年、公的な施設での市民の表現活動が公権力によって制約を受け続けている現実をあらためて浮かび上がらせた。

「行政がお金を出したイベントで展示するのはおかしい」――。

河村市長は「平和の少女像」を展示した「表現の不自由展・その後」が開幕した8月1日、そう述べて2日に展示会場を訪ね、視察する考えを示した。愛知県内の施設を会場に開催されている国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の展示企画の一つである、「表現の不自由展」は、この数年、日本の美術館などの公共空間で広がる創作作品が、「政治的な内容」を理由に次々と閉め出される異例の出来事に注目し、一人ひとりの市民が考えるきっかけを提供することが目的の一つである。

最近では、群馬県立近代美術館で「朝鮮人犠牲者追悼碑」をモチーフにした作品が公開直前で撤去されたり、さいたま市の公民館で活動する市民サークルの女性が詠んだ「9条俳句」が「公民館だより」の掲載を拒まれたりするなどした。

東京都美術館では、「平和の少女像」のミニチュアが撤去されたり、東京都現代美術館では現代美術作家が、文部科学省に批判的な言葉を書いた作品の改変を求められたことがあった。

「慰安婦」をはじめとした日韓間に横たわる戦後補償問題や、平和主義を掲げた憲法9条に絡んだテーマ、原発再稼働に批判的であるなど安倍政権の基本的な姿勢と異なる活動については、とりわけ「政治的」とのレッテルが貼られる傾向にある。

「表現の不自由展」は、「その後」と銘打って、本来、だれでも表現ができるはずの「公共空間」で物が言いにくくなる日本の社会を改めて考察するための場とする狙いもあったと思われる。

「あいちトリエンナーレ」が開幕した1日、開幕式が行なわれた愛知芸術文化センター内の愛知県美術館を会場とした「表現の不自由展」には、多くの来場者が詰めかけた。撤去の憂き目に遭った作品の一つ一つを注意深く見入っている人の数は、他の展示会場を圧倒しているように見えた。主催者の一人は「一人ひとりの会場での滞在時間は非常に長いようです」と手応えを感じていた。

河村市長の元には7月31日に2件ほど、「平和の少女像」の展示情報が寄せられ、初めて知ったという。河村市長は「行政がお金を出したイベントで展示することは、見解が分かれる問題に対して市長が一方の立場を容認したと受け取られかねない」と視察を決めた理由を明かしていた。

しかし、こうした理由で多くの創作物が人々の視野から姿を消したわけだ。「表現の不自由展・その後」の作品は、撤去の妥当性そのものを問うものでもあろう。これらの作品がもし再び、同じ理由で追いやられるとすれば、3年ぶりの開催となる今回の「あいちトリエンナーレ」の開催の意義そのものが損なわれることになる。

芸術監督はジャーナリストの津田大介氏が務めている。芸術の善し悪しについて行政が踏み込むことに愛知県は慎重な姿勢を示し、関係者によれば、大村秀章・愛知県知事は、カネは出すが口は出さない、という精神で開催に臨んだのだという。

河村市長には企画の狙いを踏まえた賢明な判断を期待したい。

(臺宏士・ライター)

 

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