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〈強欲〉より〈共感〉の資本主義を

佐々木実|2019年5月16日7:00AM

強欲を意味する「グリード(greed)」は、しばしば市場原理主義者を象徴する言葉として用いられるようになった。転じて、資本主義の特性を表すキーワードとして持ち出されることもある。けれども、経済学の始祖アダム・スミス(1723―90)にまで立ち返るなら、「資本主義=グリード」という連想は相当に的外れである。

『国富論』を著したスミスは一方で、『道徳感情論』を著した道徳哲学者でもあった。人間社会における〈共感(sympathy)〉の働きを重視したスミスにとって、市場経済は、人間に生来的に備わっている〈共感する〉能力を基礎として成り立つわけである。

〈共感(sympathy)〉と〈強欲(greed)〉──どちらを基調とするかで資本主義のビジョンはがらりと変わるだろう。

アダム・スミスが提起した問題を、神経科学の知見で解こうとする試みが、ポール・J・ザック『経済は「競争」では繁栄しない』(ダイヤモンド社)である。〈信頼ホルモン「オキシトシン」が解き明かす愛と共感の神経経済学〉という副題を見た時はトンデモ本かとも思ったが、なかなか説得力のある本だった。

著者によれば、スミスが唱えた〈共感(sympathy)〉は、ヒトの体内にある化学伝達物質オキシトシンで説明できるという。

〈オキシトシンは小さな分子(ペプチド)で、脳の中で信号を送る神経伝達物質と、血液中でメッセージを運ぶホルモンの両方の働きを持つ。1906年にサー・ヘンリー・デイルが下垂体で発見し、ギリシア語で「すばやい」を意味する単語と「出産」を表す単語を合わせてオキシトシンと名づけた。やがてオキシトシンは産科医と婦人科医によく知られるようになった。陣痛の始まりと授乳用の乳汁の流れを制御しているからだ。〉

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