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巡査の「いじめ自殺」で遺族側勝訴的和解 愛知県警「パワハラ」認める

亡くなったAさんの遺影に裁判の報告をする父親。(撮影/三宅勝久)

2010年に愛知県警の新人男性巡査(享年24)が警察署内で拳銃自殺した事件をめぐり、先輩らのいじめが原因として遺族が愛知県を相手取り名古屋地裁に起こしていた国家賠償請求訴訟。今年7月、県側が「パワハラがあった」として非を認め、150万円を払う内容の遺族側勝訴的和解が成立した。事件から浮かぶのは、人権感覚が乏しい閉鎖社会のなかで苦しむ底辺の警察官の姿である。

事件が起きたのは2010年11月29日の昼ごろ。愛知県警で最も規模の大きい中署(名古屋市中区)の2階トイレで、地域課の巡査だったAさんが拳銃で頭を撃って自殺を図り、後に死亡した。大学卒業で一般の警察官に応募、中署地域課の配属となって2カ月。先輩巡査部長や巡査の新人指導を受けながら勤務していた。愛知県警の調査によれば、事実経過はこうだ。

(1)この日午前、Aさんは中署のなかで射撃訓練に参加、拳銃に取り付けている吊りひもをはずしたところ、ひもを訓練場に置き忘れた。(2)訓練後、Aさんが交番に戻ろうとしたところ、吊りひもがないことに気づいた。指導担当の先輩巡査部長らから「指導」を受け、ロッカーや寮の部屋の荷物やかばんをひっくり返して捜索。(3)吊りひもは警務課が保管していることが判明。しかし、その後も先輩からの「指導」が続く。交番に戻ろうとしたAさんに先輩は「お前もう知らん、勝手にしろ」と発言、中署に置き去りにして1人で交番に行く。(4)中署のトイレでAさんが拳銃自殺をはかる。

事件の10日前には、先輩巡査部長から執拗に退職を促されていたことも報告書で明らかになった。実習日誌の保管場所が間違っていたという理由で、約30分間、数十回にわたって「やめろ」と迫り、机をたたいたりいすをけって退職願への署名を迫ったという。

さらに、交番の前の路上で何十回も腕立て伏せやスクワットをさせていた事実も判明した。

だが、いずれも「指導」であっていじめではないというのが愛知県警の結論で、先輩巡査部長や上司の懲戒処分はなされなかった。

これに遺族は納得できなかった。いじめを受けているという話は、生前本人から断片的に聞いていた。その内容が県警の報告よりもはるかにひどかったからだ。腕立て伏せの回数は200~300回。同じ内容の反省文を繰り返し書かせる。先輩の私用を頻繁に言いつけられる。当直の日にはほとんど仮眠させてもらえない。当直が明けても帰宅させてくれない。寝不足でフラフラだった。そう嘆いていた。

【県警警部補だった父親】

内部告発もあった。吊りひも発見後、Aさんを土下座させて「死んでしまえ」などと激しく罵倒していた。暴力を振るっていた。事件後は上司らが責任逃れのために箝口令を敷いている――。

息子は警察に殺されたのだ。両親はそう確信した。父親は現職の愛知県警警部補だったが、時効目前の2013年8月、愛知県を相手どり、慰謝料や逸失利益計約6000万円の損害賠償を求める国家賠償請求訴訟を起こした。代理人弁護士は札幌弁護士会の市川守弘弁護士。熊本県警機動隊員のいじめ自殺をめぐる国賠訴訟で勝訴した実績をもつ。

裁判でも愛知県側は「いじめ」はなかったと責任を否定した。だが審理が終盤に入った今年初め、裁判官が和解を勧告し、応じる姿勢に転じた。和解調書には「侮辱的言辞での叱責及び執拗かつ威圧的な退職勧奨等の不適切な行為を行った」と警察の非を認める一文が入った。事実上の遺族側勝訴だ。

裁判中に警察を定年退職した父親が言う。「在職中、自殺した警察官を何人も見聞きしました。幹部が遺書を捨てた例もある。でも自分だけは違うと組織を信じていた。警察はちゃんと調査して、いじめた当人を処分すると思っていました。しかしちがった。息子をいじめた当事者に対する処分をどうするのか、見届けたい」。

愛知県警(加藤達也本部長)は監察官室を通じて「(自殺の件は)大変遺憾だ。処分については公表をさしひかえる」と回答した。

(三宅勝久・ジャーナリスト、8月25日号)