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公立学校の建設業者が抗議住民を盗撮し「事実」をでっちあげ 行政と共謀か

2017年6月27日4:36PM

東京・杉並区高円寺に杉並区(田中良区長)が計画している小中一貫校の校舎建設計画(6階建て。総工費約80億円)に伴なって同区と区教委が開いた工事説明会で、説明者として同席していた工事事業者が、説明会に参加している住民の肖像をビデオカメラで隠し撮りしていたことがわかった。事業者は後に、その映像を証拠として、住民から妨害を受けたなどとして事実を捻じ曲げた内容で東京地裁に妨害禁止の仮処分申し立てを行ない、同地裁が認めた。

杉並区はこの「盗撮」を事実上黙認しており、了解ずみだった可能性が高い。公共工事に住民は文句を言うなと言わんばかりの暴挙に、「田中区長は独裁者になったのか」と強い疑問の声が上がっている。

共謀罪法案には威力業務妨害も対象とされているが、これが成立すれば、今回のような例も警察の捜査対象になり得る。公共工事をめぐる住民運動を弾圧する強力な「凶器」として、民間企業や役人、政治家たちに「活用」されるのは明らかだ。

隠し撮りをしていたのは昨年11月、小中一貫校工事の本体工事を約54億円で受注した白石建設(株)(北澤暖社長)の社員。契約から1カ月後の同年12月17日、予定地の高円寺中学校で開かれた工事説明会に出席したが、前方から聴衆席に向けて小型ビデオカメラを密かに向け住民らの肖像を撮影した。参加者によれば、それまでの区の説明が十分でなかったことから、説明会は時期尚早であると住民らが口々に抗議を行なった。高齢者や女性が多く、手を出すなど暴力的なことは一切なかった。

これに対して白石建設は、このとき密かに撮った映像から静止写真を切り取り、「説明会を妨害する住民」の証拠だなどとして、4月27日、妨害禁止の仮処分を申請した。静止写真には住民の名前が書き込まれていた。会場では受付名簿が用意され、参加者に氏名・住所の記載を求めていたことから、本人特定に杉並区が協力した可能性がある。

区は「隠し撮り」を知らなかったというが、発覚後の反応は奇妙。

以下、伊藤克郎営繕課施設整備担当課長取材時のやり取りだ。

(筆者)住民説明会で事業者が住民を隠し撮りしていたのは重大な問題ではないか。(伊藤課長)撮影は事業者が必要だと考えてやったのだろう。事業者のやることに区があれこれ言うことはできない。(筆者)隠し撮りに問題はないのか。(伊藤課長)答えられない。(筆者)事情聴取や注意はしたのか。(伊藤課長)簡単に聞いた。注意はしていない。――白石建設の盗撮行為をとがめる様子がないのだ。

【取材時と違う業者の説明】

白石建設の言い分も怪しい。建築許可がまだ下りていない今年1月30日、白石建設社員らは測量などの作業を行なおうと現場を訪れ、中止を求める住民10人ほどと遭遇。取材していた筆者が目撃したのは、終始穏やかなやりとりだった。

「区と話し合っている。着工は待ってほしい」。住民の1人がそう静かに説明をし、社員らは手を前に組んでおとなしく聞いている。そして納得した様子で自ら引き揚げていった。住民たちが手にしていたのは画用紙だけのプラカードで、マイクすらなかった。

同社幹部は筆者にこう説明した。「住民の人の意見を聞くのはきょうがはじめてだ。持ち帰って検討したい」。

ところが、仮処分ではこんな話に変わっている。「メンバーが西門の前にたちはだかり、作業員らの入場を妨害した。結果当日は敷地内に入場できず、作業に着手することができなかった」。

少なくともこの日に関しては、白石の「妨害」説はである。

盗撮され、妨害“犯人”に仕立て上げられた住民の1人、孝本敏子さんは言う。

「子どもから日光を奪い住民の住環境を破壊する学校の改善を求め、また、地盤調査が不十分なのに巨大校舎建設は不安だと訴えてきただけです。理不尽でも“お上”に従えということなのでしょうか。納得できません」

(三宅勝久・ジャーナリスト、6月16日号)

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