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“解散狙い”露呈で足元を見られた日露首脳会談――“食い逃げ”で得をするのは

2017年1月10日11:14AM

杉浦敏広氏。北海道延伸ならシベリア鉄道の一部となるサハリンの鉄道で。(提供/横田一)

杉浦敏広氏。北海道延伸ならシベリア鉄道の一部となるサハリンの鉄道で。(提供/横田一)

日露首脳会談を終えた安倍晋三首相とプーチン大統領は12月16日、共同記者会見で「北方4島での共同経済活動の実現に向けた協議開始で合意」と発表したが、北方4島返還交渉の具体的進展はなかった。そのため、自民党の二階俊博幹事長が「国民の大半はがっかりしている」とコメントするなど、期待外れの結末となった。国益がぶつかり合う領土交渉を「プーチン大統領との信頼関係で乗り切れる」と高をくくった安倍首相の完全敗北といえるだろう。

元経産官僚の古賀茂明氏は、「ロシア側に『北方領土解散狙い』と手の内をばらした時点でダメです」と一刀両断。「安倍政権が北方領土返還を総選挙の目玉にするのなら、思いっきり要求レベルを上げて金を引き出そう」とロシア側に足元を見られたためで、これにトランプ米大統領誕生の誤算も重なった。「これまではG7によるロシア経済制裁の一角を切り崩すとして日本に譲歩しようとしていましたが、ロシアに好意的なトランプ大統領当選で状況が一変、急いで北方領土問題を決着させる必要がなくなった。日本側はさらに不利な状況に追い込まれ、当分は様子見をすべきです。そして『日本は急いでいないが、ロシアは急いでいる』という状況になるまで待つことが重要なのです」(古賀氏)。

元サハリン駐在の商社マンの杉浦敏広氏(環日本海経済研究所・共同研究員)も、同じ見方をしていた。「原油価格上昇と共にプーチン大統領の権力基盤は強化されましたが、原油安に転じたことからロシアの準備基金は激減、『2017年中頃にはゼロになる』のが確実視されていました。ロシアが財政危機に陥って日本に救いの手を求めてくる時まで待っていれば、良かったのです」。

しかし安倍首相は、「12月の日露首脳会談で北方領土交渉の目途をつけて解散に打って出る」と目論見、それがロシア側にも分かってしまったので、高いハードルを突きつけられてたというわけだ。

【自民党の利益誘導進む!?】

安倍首相に助言するなど北方領土問題で連携したのが、鈴木宗男・新党大地代表。メディアで頻繁に「2島先行返還+α」を現実的な落とし所と発信、官邸の広報宣伝役として尽力していた。その結果、「経済協力先行」というロシアに“食い逃げ”を許す片棒を担ぐことになった。経済協力先行に、ロシア極東発展省のシェラハエフ極東投資輸出局長が反応していた。ロシア側が要求していた「シベリア鉄道北海道延伸」(推計1兆円)と「天然ガスパイプライン敷設(サハリン~東京湾)」(推計7000億円)について、「『実現の可能性は大きい』と期待を込めて話した」(『読売新聞』12月17日付)というのだ。両事業で約2兆円にも及ぶ大型事業案件である。

しかし杉浦氏は、「サハリン島最南端のクリリオン岬から北海道最北端の稚内までトンネルを建設したり、架橋したりする構想ですが、物流がないのにトンネルや架橋をしても無意味」と採算性を疑問視、「もう少し冷静な議論が必要です」と釘を刺していた。

「天然ガスパイプライン」については、自民党国会議員がメンバーの「日露天然ガスパイプライン推進議員連盟」がロシア側と連携するかのように動き出していた。11月にまとめられた提言・要望書によるとサハリンから稚内(北海道)・むつ小川原(青森)・日立(茨城)を経て東京湾に至る1500キロに天然ガスパイプラインを設置する構想になっており、建設費は7000億円だった。しかし杉浦氏はこう指摘する。「日本では土地代が高い。『鉄道や高速道路の下に敷くといい』という人がいるが、設置工事は30メートル位の幅で、堀った穴に重機が入ってパイプを設置する大規模工事。想定より工事費が膨らむのは確実で、沿岸に海底パイプラインを建設する方が総工費は遥かに安いでしょう」。

結局、北方領土返還交渉が進展しないまま、日露経済協力事業だけが先行、ロシア側の“食い逃げ”と自民党の利益誘導が進む事態が想定されるのだ。国会審議などでの徹底的な検証が不可欠だ。

(横田一・ジャーナリスト、12月23日号)

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