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正念場を迎えた「戦争賛美本」との闘い(編集部)

        日本会議、文科省も絡む教育右傾化の潮流

自民党や右派勢力は、育鵬社の歴史と公民の教科書を採択させようと自治体の首長を集めた「教育再生首長会議」を立ち上げるなど、これまで以上に攻勢をかけている。改憲や戦争立法に対する闘いと同様、この教科書の採択阻止が急務だ。

安倍晋三首相や下村博文文部科学相を筆頭とした政府・自民党、そして日本会議をはじめとした右派勢力は現在、育鵬社版の全国採択率4%を10%に拡大するため、かつてなく積極的な布陣を敷いている。

だが、育鵬社版教科書は教育現場での評価が極めて低い。先進国では常識の「教科書採択に当たっては教員の意見を尊重する」(ILO・ユネスコの『教員の地位に関する勧告』)という原則を破ってまでも、政治介入するしか方法はないのだ。

その具体的な現れが、自治体首長の抱き込みだ。2014年6月2日、「教育再生首長会議」(会長・松浦正人山口県防府市長)なる団体の設立総会が開かれた。これには下村文科相が挨拶に駆けつけたが、現在まで約90人にのぼる加盟首長を抱く自治体は、育鵬社版の採択が強行される懸念が持たれる。

        すべては育鵬社版採択へ

この「教育再生首長会議」の事務局が置かれているのは、「安倍晋三内閣が進める教育改革を民間の立場からサポートする」という、「教育再生をすすめる全国連絡協議会」なる団体。さらに同「全国連絡協議会」の事務局は、「日本教育再生機構」の内部に置かれているからだ。

この育鵬社の共同事業体ともいえる「日本教育再生機構」の理事長である八木秀次・麗澤大学教授は首相の有力ブレーンの一人で、首相直属の諮問機関「教育再生実行会議」の「有識者」委員にも任命されている。

さらに「日本教育再生機構」は顧問の11人中、3人が「日本会議」の幹部役員を兼任しているなど、両者は組織・運動面で密接な関係にある。「日本会議」は各自治体の教育委員会に対し、「新しい教育基本法の趣旨をふまえた教科書採択を求める」という名目の請願を提出し、暗に育鵬社版採択を要求する例がこのところ各地で目立つ。東京都江東区の区議会では、自民党議員などから「(育鵬社以外の教科書は)自虐史観に基づくもの」といった、明らかな政治介入を意図した発言が繰り返されている。

つまり、「教育再生首長会議」──「教育再生をすすめる全国連絡協議会」──「日本教育再生機構」(育鵬社)──「日本会議」のラインは、安倍・下村両氏の路線に直結し、すべては彼らの推す教科書採択に向けて動いているといえるだろう。

「教育再生首長会議」結成直後の同月13日、首長の教育行政への関与を強める地方教育行政法が改定された。「日本教育再生機構」側は施行された今年4月1日以降、「教育委員は各首長が定める『教育大綱』に示された方針に従って教科書採択をしなければならなくなった」と主張している。

だが文科省の小松親次郎初等中等教育局長は4月22日の衆院文部科学委員会で、教科書採択制度に関する共産党の畑野君枝議員の質問に対し、首長が「特定教科書会社、1社の教科書を採択するとしか解せないような方針」はとれないと答弁している。いずれにせよ「教育再生首長会議」に首長が加盟している自治体では、育鵬社版採択の動きが要注意だ。

一方で文科省は今年1月29日、都内で開かれた省主催の政令指定都市教育委員会・教育長協議会の席上、「教科書採択の留意事項について」と題した資料を配布。そこでは、「(教科書)調査員からの報告等を鵜呑みにしたり、教職員の投票によって採択教科書が決定されたりするなど、教育委員会の責任が不明確になるような採択の手続は適当ではありません」などという注意事項が明記されていた。

        政令指定都市があぶない

あたかも、「現場の意見などに耳を貸すな」と言わんばかりだが、これについて教科書検定制度に詳しい出版労連の寺川徹副委員長は、「教育委員の大半は教育の専門家ではなく、十分な検討ができないため、現場の教員を中心とした調査員の意見がこれまで重視されてきました。それなのに文科省がそのような資料をわざわざ配布したのは、何か不自然な意図を感じる」と指摘する。

「政令指定都市は川崎市を除いて教科書採択区が近年一区に統合されてしまい、人口が多いから横浜市のように採択されれば一挙に部数増につながります。当然、育鵬社版推進側は政令指定都市を狙っていますから、今回の資料もそれと無縁ではないのでは」

実際文科省は13年から14年にかけ、所属する沖縄県の八重山採択地区の決定とは別に、育鵬社版ではない別の公民教科書を採択した竹富町に対し、「違法だ」などとして執拗に育鵬社版を押し付けようとしたのは記憶に新しい。

このため、今回の教科書採択に当たっては、政令指定都市が焦点となっている。特に注目されているのは、橋下徹市長によって、(1)教科書調査研究の観点に「愛国心」の度合いを調査する項目が追加、(2)教科書に関する学校調査の事実上の廃止──といった、露骨な現場無視の施策が強行されている大阪市だ。

こうしたなか、育鵬社版教科書が使用されている横浜市で5月28日、教科書採択にあたっては教員や専門家、市民の意見を尊重し、政治が介入するのを止めるよう求めた「教科書で始まっている戦争できる国づくり」と題する集会が、約700人の参加で開かれた。

さらに広島市でも5月30日、「迫る!中学校教科書採択! 子どもたちを戦争にみちびく教科書はいらない!」と銘打った県民集会が開かれ、約220人が参加。今後の取り組みとして、教育委員会の傍聴と会議録の開示請求等による、不公平な採択が行なわれないための監視──等が確認された。

大阪市でも6月6日、名古屋市で13日に現場の意向を反映した公平な教科書採択を求める集会を予定。6月19日から2週間、各地での教科書展示会が開かれた後、8月いっぱいにかけて採択が行なわれるが、安倍首相が強行可決を狙う戦争法案と並び、教育現場で今夏、「子どもたちを戦争にみちびく教科書」を阻止する闘いが、正念場を迎えようとしている。
(2015年6月5日号)

育鵬社版の中学校社会科教科書を読んでみた

横浜と大阪両市の教育委員会が選んだ、2016年度から市立中学校で使う社会科教科書(歴史、公民)はどのような内容なのか検証する。

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歴史──衣の下の鎧、「大国主義」を遂に押し出してきた(高嶋伸欣)

育鵬社版の見本本が、日本教育再生機構を通じて販売されている。以前のように市販本の体裁を取らず、見本本そのものを販売するという、新たな手法だ。この点について、同機構の八木秀次理事長は「今回からそのようなことが可能になった」と強調している。「育鵬社版歴史・公民教科書出版記念&採択に向けた集い」(5月13日)の冒頭発言でだ。

文部科学省による採択向け活動の規制では、教育委員会関係以外の公立学校教員への見本本の無料配布を禁じている。一方で、見本本の販売を禁止する規定がないことが以前から判明していた。その盲点を今回突いた形だ。

だが同時に、これで同機構は見本本の販売・普及活動の当事者となり、独占禁止法による公正な販売競争の規制対象に含まれることになった。4年前の採択直後から機関誌『教育再生』を通じて「次の採択戦はすでに始まっています」と会員に呼びかけ、他社本批判を繰り返してきた事実がある。これまで「同機構は販売・普及活動の当事者ではない」としてきた公正取引委員会の見解も、今回は通用しない。公取委が試される番だ。

八木氏たちの不用意さはそれだけではない。歴史教科書本文に、そのことが表れている。同書は全6章、85テーマで構成されていて、その最終テーマ「日本の現状とこれから」の本文末尾が、新たに次のように締めくくられているのだ。

「世界の中の大国である日本は、これからもすぐれた国民性を発揮して、国内の問題を解決するとともに、世界中の人々が平和で幸せに暮らしていけるよう国際貢献していくことが求められています」と。

   原始・古代から日本は“大国”だった?

「世界の中の大国である日本」などという表現が、とうとう登場した! 同書31・33頁にはコラム「世界最大の墓・大仙古墳(仁徳天皇陵)」「古墳は『語る』」がある。面積では、クフ王のピラミッドや始皇帝陵よりも仁徳天皇陵が上回っているという。すでに現行版から登場している記述だ。まるで「世界一長い海苔巻を作ってギネス登録に成功した日本はスゴイ!」と自慢しているようなもの、と笑われていたものだ。ピラミッドや始皇帝墓のような立体的な構造物を築く技術が未熟で、平面の規模を大きくするしかなかったことは、小学生でも容易に気付く。

その物笑いの記述が、今回さらに強調した形で再登場した。日本は古代から「世界の中の大国」であったのだ、と印象づける意図が読める。

さらにその意図を増幅させているのが、縄文時代を、「世界4大文明」に匹敵するものとイメージづけしている記述だ。現行版の2頁分が6頁に拡大された。八木氏も、5月13日の集会で「今回は縄文時代が一つの特徴だ」としている。金属器の使用が遅く、記録も中国などの文字史料などに依存するしかない時代を、ここまで無理に誇示している。原始の時代から日本は「世界の中の大国」だった、と思わせたいためだろう。

26頁の「文明のおこり」では、本文冒頭に「わが国が縄文時代の時を刻んでいるころ、アフリカ・アジアの大河の流域では」云々とある。紀元前3500年頃を語るのに早くも「わが国」としている。現行版では「日本が」だがどちらでも、国家意識丸出しであることに変わりはない。

それでも、八木氏は「縄文時代から日本の文明が始まっている」とした上で「外から文化や文明を受け入れて」いる、と先の集会で発言した。海外からの進んだ文化や指導を受け入れて進歩が生まれた、と認めたものだ。しかし、同書215頁には「三・一独立運動」の写真に「女学生がソウルで行ったデモ行進」との説明をつけている。現行版にもあるこの写真説明に対して、韓国の市民団体から、「女学生ではなくキーセンのインチョン(仁川)での行進」であるというのが現在の韓国歴史学界の結論、という参考資料が育鵬社に昨年中に渡されている。

韓国などからの働きかけを「韓国の圧力」視によって、切り捨てての誤記継続だろう。ここにも「世界の中の大国である日本」のおごりの一端が垣間見える。衣の下に隠されていた鎧の「大国主義の歴史観」を表に遂に掲げるまで増長したのが育鵬社版歴史教科書だ。

安倍政権の「戦争法」制定と軌跡を一にした同書の普及、採択は世論の力で食い止めたい。
(たかしま のぶよし・琉球大学名誉教授。文部省の検定の違法性などを問う「高嶋教科書訴訟」(1993~2005年)の原告。2015年6月5日号)

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公民──憲法改正に向けての動きを作り出すツール(山口智美)

育鵬社版の公民教科書は、国家に貢献できる人材づくりを目指したものだ。そして、前回検定版にも増して、改憲に向けての動きを作り出そうという狙いが明白な作りである。

冒頭で「グローバル化」を扱うが、そこでは国の歴史、伝統、文化を踏まえた存在こそが「グローバル人材」であると定義づけられる。その主張を強化するために、曽野綾子氏の「よき国際人であるためには、よき日本人であれ」という文章が掲載されている。他の章でも、愛国心や国家への意識の重要性が強調されている。

日本国憲法の解説として「国民主権と天皇」と題された節があるが、その中に「国民としての自覚」という項目を新設。「国民」の(権利ではなく)義務と責任を強調している。同項のコラムには、東日本大震災の被災地で黙祷する天皇皇后の写真とともに、「日本の歴史には、天皇を精神的な支柱として国民が一致団結して、国家的な危機を乗りこえた時期が何度もありました」と書かれている。別の東日本大震災についての頁も「自分を犠牲に住民守った公務員」や「感動与えた日本人の秩序」など、国家への自己犠牲を賞賛し、ナショナリズムを煽る内容だ。

改憲に関連する記述が多いことも特徴だ。「憲法改正のしくみ」については、今回「主な国(二院制)の憲法改正要件の比較」という表も追加された。基本的人権に関しても、社会秩序を優先し、個人の権利や自由の行使が制限されることもあるとし、集会・結社の自由の制限などの例を挙げる。また、新たに「政府の仕事」に追加された「国民を守る防災・減災」では、災害時の危機管理システム構築の重要性が強調される。現在改憲派の最優先項目といわれる「緊急事態条項」の導入に直結した内容といえるだろう。

また、環境権などの新しい人権を憲法に明記すべきという考え方があるとも書く。さらに国防の義務が日本国憲法にないことが珍しいということも、繰り返し主張され、「平和主義と防衛」という節では、有事への備えが現在の法律では不十分と述べ、中国や北朝鮮の軍事的脅威が強調される。改憲派が主張していることがもれなく盛り込まれている。

   さながら“安倍晋三ファンブック”

育鵬社の宣伝誌『虹』によれば、今回の教科書の最大の特色の一つが「人生モノサシ」という図だ。「学校教育の時代」「社会人の時代」(結婚を含む)「親の時代」(出産・子育て・家庭教育を含む)「高齢期」という人生のモノサシが示されている。結婚や出産、子育てが前提となった画一的なモデルだけが提示され、多様な生き方という視座はない。

執筆陣は全員男性だ。男女共同参画社会の説明は、基本法の定義とは乖離。「男女のちがいというものを否定的にとらえることなく、男らしさ・女らしさを大切にしながら……」という記述もあり、「夫婦同姓制度も家族の一体感を保つはたらきをしていると考えられています」と説明されるなど、家族の一体感や維持の重要性を強調。改憲派の提案する「家族保護条項」に直結した内容だ。

領土問題については、約4頁にもわたり日本の立場のみが詳細に示される。辺野古への米軍基地移転は地元への「負担軽減」という解釈も、政権の立場に偏った記述だ。

また、人権や差別問題に弱いという本教科書の特徴は、「人種差別」を海外の問題と位置づけ、「社会権」は外国人に保障されるものではないなどとの定義づけにも。ニートは「学校に通わず就職もしない」と自己責任であるかのように描かれ、社会構造の問題という視点も非常に弱い。

他にも、たとえば村上和雄氏の「遺伝子の世界と『サムシング・グレート』」と題するコラムが残ったが、これは反進化論「インテリジェント・デザイン」論と近い考え方で、非科学的という指摘もある。ちなみに、史実にはないとして保守陣営内からの批判もある「江戸しぐさ」は、検定合格後に削除されたという。

「日本がもっと好きになる教科書」を謳うが、あくまでも安倍政権が理想とする「日本」を好きになれ、というものでしかない。そして、これは「安倍晋三をもっと好きになる」ための教科書だ。掲載された安倍氏の写真は15枚に及ぶ。「安倍晋三ファンブック」と化している本教科書だが、政権の目指す改憲のためにはこの上ないツールと見なされるだろう。この動きは止めなくてはならない。
(やまぐち ともみ・米国モンタナ州立大学 社会学・人類学部教員。専門は文化人類学、フェミニズム。2015年6月5日号)

育鵬社教科書の影に首相グループ──安倍晋三氏の異常な執着(池添徳明)

 横浜、大阪両市の教育委員会は8月5日、2016年度から市立中学校で使う社会科(歴史、公民)の教科書に育鵬社版を選びました。大阪は初めてで、横浜は4年前に続く決定です。育鵬社の教科書が「勢いを増している」背景には安倍晋三首相グループの影があります。『週刊金曜日』6月5日号に掲載した特集「誰が教科書を殺すのか」をネット配信します。

 

育鵬社の最新版教科書の出版記念集会が今年5月13日、東京・六本木ヒルズで開かれた。集会のキャッチコピーは、「あなたのまちにも育鵬社教科書を」「『日本がもっと好きになる!』教科書を全国の子供達に届けよう」。

登壇した日本教育再生機構理事長の八木秀次・麗澤大学教授は、「育鵬社の教科書は学習指導要領を徹底するだけでなくその先を行っている。人物に焦点を当てて歴史を描いている。公民は、国家とは何かを中学生に理解させたい思いで執筆した。天皇や安全保障は他社を圧倒している」と胸を張った。

その上で、「今回は新しい教育委員会制度でのはじめての採択。首長のもと総合教育会議が設置され、教科書採択の方針について話し合うことができる。前回の採択で育鵬社は業界5位で4%のシェアを得た。神奈川県では52%~53%だ。一つでも多くの自治体で採択されるように協力をお願いしたい」と檄を飛ばした。

        安倍内閣のもとで結果を

4年前に同じ場所で開かれた育鵬社教科書の出版記念集会で、安倍晋三氏(当時野党)は、「改正教育基本法の趣旨に最もかなっているのが育鵬社の教科書です」と誇らしげに語った。しかし今年の関係者の高揚感は、この時とは比較にならないほど大きかった。

今年の集会には、安倍首相の盟友中の盟友と言われる参議院議員の衛藤晟一・首相補佐官も登壇し、次のような趣旨を述べた。

「安倍政権は、日本の前途と歴史教育を考える議員の会(教科書議連、1997年~)の議員が中心になって誕生させた。第三次政権の中核は議連メンバーが占める。安倍首相と『慰安婦』問題を追及し教育基本法を改正した。もう一つが教科書だ」

「この素晴らしい育鵬社の教科書を採択できるように努力したい。私どもの考えと近い首長を選んで、そこで教育行政がきちんと行なわれるように、その意思を受けた教育長が選任されなければいけない。教育長と首長がどういう教科書を採択するか、決める権限がある。いよいよ本番だ。教科書採択にかかっている」

安倍首相と安倍政権を支える議員たちが、いかに「教育改革」に執着し執念を燃やしてきたか、実によくわかる発言だ。

士気は高まる一方だ。『朝日新聞』が、「従軍慰安婦」の一部記事を取り消し謝罪したのも大きい。八木氏はこう述べて参加者を鼓舞した。

「虚構は暴かれた。これまで扶桑社・育鵬社の教科書を採択しようとする自治体や学校は、中国や韓国の圧力に屈してきた。だが圧力は効かなくなった。制度も変わった。大きな変化の後に迎えるはじめての採択だ」

「安倍内閣のもとで教育再生をどんどん進めている中で、結果を出さなければ恥ずかしい。育鵬社の教科書がどれだけ採択されるのかによって、安倍内閣の教育改革の真価が問われる」

         理念骨抜きの教委制度

育鵬社の教科書は、「戦後レジームからの脱却」を掲げる安倍政権の主張と、見事に合致した内容で貫かれている。

育鵬社は、従来の歴史教科書を「自虐史観だ」と批判する「新しい歴史教科書をつくる会」(つくる会)から分裂した「教科書改善の会」や、日本教育再生機構理事長の八木秀次氏らが支援する。八木氏は育鵬社教科書の執筆者で、安倍首相の私的諮問機関・教育再生実行会議の委員でもある。

一方、つくる会の創設者である藤岡信勝氏らは、自由社から歴史と公民の教科書を出している。

つくる会系のメンバーが執筆した歴史・公民の教科書(扶桑社版)は出版当初、「あまりに右寄り過ぎる」としてほとんど採択されなかった。経営的に厳しい状況が続いたが、横浜市の大量採択で息を吹き返したと言われる。

今年4月に導入された新しい教育委員会制度では、名実ともに首長の権限が強まる。教育委員会制度の見直しは、安倍政権が推進する「教育改革」の目玉の一つだ。新制度では教育委員長と教育長を一本化。事務局トップの教育長に権限を集中させ、その上で首長に教育長の任免権を与える。

教育委員会は、教育が国家にコントロールされた戦前の苦い経験を反省して生まれた。しかし安倍教育改革は、政治的中立と独立を守ってきた教育委員会制度を、根本から否定するに等しい。

今後は教育委員会の理念が骨抜きにされ、教育に政治が土足で踏み込むことになりかねない。教科書採択にも、政治家の意思がこれまで以上に反映されるだろう。

        管理統制と支配着々と

安倍政権の「教育改革」の方向は一貫している。国による教育の管理統制や支配だ。

第一次安倍内閣(06年~)で安倍首相はまず、教育基本法を改正し、愛国心を教育の目標として盛り込んだ。さらに、教員免許に有効期限を設けて、更新研修を義務付ける免許更新制を導入した。

第二次安倍内閣(12年~)では教育委員会制度を見直したほか、道徳の教科化を実現。教科書検定基準を改定し、政府見解に基づいた記述をすることなどが追加された。

今年5月には、安倍首相の私的諮問機関・教育再生実行会議が、教員採用試験の共通化を提言。現在は都道府県や政令指定市が独自に実施している採用試験を、国と自治体が共同で行なうという。

一方、自民党の教育再生実行本部は同月、教員免許の国家資格化を提言。国家試験を行ない、一定の研修を経て国が免許を与えることを検討しているという。現在は大学の教員養成課程を修了すれば、都道府県が免許を与えている。

いずれも国が教員の資格と採用に深く関与し、管理統制する方向で動いているのは明らかだ。

        苦悩する現場教師たち

育鵬社の歴史教科書を使い、公立中学校の教師が模擬授業する様子を取材したことがある。

日露戦争の勝利はアジア諸国民に希望を与え、韓国併合で朝鮮は発展したことが授業を通して淡々と刷り込まれていく。教科書の記述を先生の話術と問いかけでわかりやすく説明するが、実際には一面的・断定的で、雰囲気に飲み込まれる授業が展開される。戦争で疲弊する国民の描写はなく、他社の教科書にある「帝国主義」「植民地」の言葉は一切出てこない。

「強制した」「奪った」という言葉は使わない。文献から都合のいいところを引用し、生徒に深く考えさせず、強引に一方的な結論へ導く授業だった。

「子どもたちが教科書の影響を受けているのがよくわかる」と現場の教師。支配を正当化するのが育鵬社教科書の特徴だという。

育鵬社採択地区の教師は、「間違った歴史を教えているのではと思いながら授業をしている。教え子を再び戦場に送らないと言える自信がない」とこぼす。

「これまで30年間の教師生活の中で、今ほど教材研究をしている時はありません」。なんとか工夫して、まともな授業をしようと苦悩する現場の言葉が重い。

それでも育鵬社の教科書を反面教師的に使い、他社と比較して、子どもたちに考えさせることは可能なのでは。教師の力量で工夫した授業はできないのか。

そんな質問を公立校の教師にぶつけてみたら、事態はずっと深刻だった。副教材やプリントはすべて管理職に提出し、事前に許可を得なければならない。新聞記事を使った教材さえ「偏っている」と言われることがあるという。

「そもそも最近の若い先生は、与えられた指導書に忠実な授業をするので、教科書に疑問を持ったりしないんですよ」

生徒は試験前になると教科書の指定範囲を熟読する。教科書の影響力は想像以上に大きい。

(いけぞえ のりあき・フリージャーナリスト。2015年6月5日号)

教科書採択への政治介入を公言する安倍首相の発言録はこちら

第三次安倍内閣閣僚の「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」参加者はこちら

第三次安倍内閣閣僚の「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」参加者

安倍 晋三 (内閣総理大臣)
高市 早苗 (総務大臣)
岸田 文雄 (外務大臣)
下村 博文 (文部科学大臣)
塩崎 恭久 (厚生労働大臣)
中谷 元  (防衛大臣)
菅  義偉 (内閣官房長官)
山口 俊一 (内閣府特命担当大臣)
山谷えり子(内閣府特命担当大臣)
有村 治子 (内閣府特命担当大臣)

教科書採択への政治介入を公言する安倍首相の発言録(編集部)

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現在の教育は仕組みと中身双方に問題を抱えています。中身でいえば、まず自虐史観に侵された偏向した歴史教育、教科書の問題があります。(略)では、なぜ(自虐史観の)歪んだ教科書が採択されるのかというと、歪んでいなければ採択されない仕組みになっているからです。前回の中学校歴史教科書の採択で、ストライクゾーンど真ん中の記述ばかりであった扶桑社教科書の市販本は百万部近く売れて国民に支持されたにもかかわらず、教育現場での採択は惨憺たる結果になりました。現状の採択の仕組みでは、大多数の国民の良識が反映されないどころか、否定されてしまうわけです。この状況を変えていかなければならない。(『正論』2005年1月号「サッチャー改革に学べ!教育再興の任は国家にあり」内の座談会での発言)

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平成八年に、翌年四月から使用されるすべての中学校歴史教科書に「従軍慰安婦」なる記述が登場することが明らかになりました。これらは自由民主党、社会党、新党さきがけが連立した村山内閣時代に検定を通過したものです。このことが明らかになると「あまりにひどい」という声が各地から上がりました。自由民主党の文教部会はこうした問題について議論しなければならないはずですが、残念ながら当時は議論が提起されませんでした。そこで「これはおかしい」と、中川昭一さんを中心に「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」(現「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」)というものをつくり、教科書問題についての勉強を始めました。(略)教育基本法を、平成十八年、安倍政権時代に改正できたことは私の誇りとするところです。そこで「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛する」という文言をしっかり書き込むことができました。そしてこの教育の目標をきっちりと受けとめてつくられたのが育鵬社の教科書であろうと、私は確信を持って申し上げることができます。(2011年5月10日に都内で開かれた「教科書改善の会」主催のシンポでのあいさつ)

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新しい教育基本法の趣旨に最もかなった教科書は育鵬社の教科書であると確信しております。その育鵬社の教科書が、今回、横浜市、沖縄八重山地区をはじめとして11都府県、私の地元の山口県岩国市も含め公立校では全国409校の採択となり、前回の扶桑社と比べて数倍から10数倍の採択の増加と聞いております。皆様、本当におめでとうございます。関係者の皆様の大変なご尽力はもちろん、とくに採択された教育委員や私立中学の皆さんには、連日の不当な妨害や反対運動に決して屈することなく、自らの見識と勇気をもって、地域と日本の子供の将来のために育鵬社の教科書を採択されました。本日ご列席の皆様とともに、ここにあらためて敬意を表したいと思います。(略)わが自由民主党もこの度の教科書採択が適正かつ公正に行われるよう尽力して参りました。遺憾ながら、教育再生への道はまだまだ遠いといわざるをえませんが、明日の日本、新しい日本国のため、我々は後退することは許されません。さらに優れた教科書の普及、真の日本人になるための教育の推進にむけて、私も御参集の皆様とともに奮闘いたしますことをお約束して、本日のお慶びの言葉とさせていただきます。(2011年9月21日に都内で開かれた「教科書改善の会」主催のシンポへのメッセージ)