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原発事故の調書めぐり「誤報」認めた『朝日新聞』――「誤報とは言えない」との声も

2014年9月30日11:07AM

9月11日午後7時半過ぎ、『朝日新聞』東京本社では、木村伊量社長ら役員3人が会見に臨み、いわゆる「吉田調書」報道を誤報として謝罪し、記事を取り消すことを発表した。翌日の『読売新聞』『産経新聞』『毎日新聞』は一面トップで「朝日『東電撤退』記事を撤回」(『読売』)などと大見出しをつけてこれを批判した。

事の発端は『朝日』が5月20日、政府事故調による関係者への聴取記録のうち、故・吉田昌郎氏(事故発生時の福島第一原発所長)の調書を入手し、その内容から「所長命令に違反 原発撤退」と報じたことだった。

記事では、(1)2011年3月15日朝、事故現場にいた所員の9割にあたる約650人が吉田氏の待機命令に違反し、約10キロメートル離れた福島第二原発に撤退、(2)事故対応が不十分になった可能性があったが、(3)東京電力株式会社(東電)はこれを公表しなかったなどとされている。また、6月6日には社説で「政府が集めた情報は、国民の財産である」と主張。その後も政府事故調の聴取に応じた細野豪志・元原発事故収束及び再発防止担当大臣をはじめ、与野党から公開を求める声が出ているなどと報じていた。しかし、政府は調書の公開を否定した。

他方、一部週刊誌は『朝日』の報道直後から「9割の人間が逃げた」と書くのは誤報であるとして、事実をねじ曲げ、「なぜここまで日本人を貶めなければならないのか」(『週刊ポスト』6月20日号)などと批判していた。こうした論調にも『朝日』は抗議文を送付するなど、応酬する構えを見せていた。

次の動きは、8月18日の『産経』の報道から始まった。『産経』は吉田調書を入手して分析した結果、吉田調書は「『全面撤退』 明確に否定」している内容だったと、『朝日』の報道を全否定する記事を掲載。8月末にかけて吉田調書の抄録を連載した。連載が続いていた8月25日、菅義偉官房長官は会見で「9月のできるだけ早い時期に公開」することを発表。すると8月30日には『読売』、31日には共同通信と吉田調書の内容を伝える記事が続けて公表された。

【「原発報道」萎縮を懸念】

謝罪会見と同じ日の夕方、政府は吉田調書をはじめとする政府事故調による聴取記録を公開した。だが、公開された聴取記録は全772人中19人にすぎず、東電関係者や現役官僚などはひとりも含まれていなかった。

『朝日』批判の論調が続くなか、9月16日、政府事故調による聴取記録の公開を求めて提訴していた原発事故情報公開原告団・弁護団の会見で、海渡雄一弁護士は、公開された調書の分析から「『朝日』の報道は誤報とはいえない」とする所見を発表した。

『朝日』による記事の本質は、残された人数でプラントの維持が可能かどうかにあったとして、事故直後のプラント維持に必要な人員が400人と定められていたことなどから「命令違反の撤退」という表現が取り消さなければならない誤報といえるのか疑問だとした。「公開された調書に東電関係者はひとりも含まれていないのは問題」とも批判した。

海渡弁護士の分析からわかるのは、『朝日』を批判した各紙もまた、吉田調書やその他の調書の一部を拾っている可能性があるということだろう。『東京新聞』は9月12日の紙面で、「今回の記事そのものの意義を、もっと丁寧に検証するべきだ」(田島泰彦・上智大学教授)とのコメントを紹介。本質を外した批判で原発報道が萎縮する懸念を示した。

吉田調書をはじめとする聴取記録には何が書いてあるのか。政府、国会の両事故調は、未解明事項が多く残っているとして調査の継続を求めていた。しかし、政府に調査を継続する姿勢は見られない。

また、政府及び国会事故調の資料は、公開に関する取り扱いさえ決まっていない。原発の再稼働論争が高まっている今、必要なのは情報を公開し、福島第一で何が起こったのかを多くの目で徹底的に検証することではないだろうか。

(木野龍逸・ジャーナリスト、9月19日号)

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