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〈米国の変質〉想田和弘

2025年5月2日6:57PM

想田和弘・『週刊金曜日』編集委員。

 米国で27年間暮らし、永住権も持っていた僕にとっては、信じがたいことが起きつつある。

 トランプ政権がいわゆる「不法移民」だけでなく、合法的な移民や旅行者まで、排除のターゲットにし始めたのである。

 例えば、あるフランス人研究者が3月9日、学会に出席するため渡米した。しかし入国する際に携帯電話が調べられ、トランプの政策についての意見を述べた個人的なメッセージが発見された。それで研究者は入国を拒まれ、強制送還された。

 強制送還されるだけならまだマシだ。ドイツから米国を訪れた旅行者2人は、国境で止められて手錠等をかけられ、数週間劣悪な環境の移民勾留所に収容された。また、英国の旅行者も同じように国境で拘束され、19日間勾留された。彼らは母国へ強制送還されたが、なぜ自分が勾留されたのか、今でも理由がわからないという。

 旅行者だけでなく、ビザや永住権を持つ外国人も、安全ではない。ブラウン大学教授の医師は、就労ビザを持っていた。しかし母国レバノンを訪れた後、米国へ再入国しようとした際に拘束。「ヒズボラのリーダーの葬式に参列した」のが、その理由である。米政府当局は裁判所の命令に背いて強制送還した。

 一方、コロンビア大学大学院に最近まで在籍し、永住権を保持するパレスチナ人男性は3月8日、国土安全保障省に自宅で逮捕され、今でも移民勾留所に収容されている。大学での親パレスチナ・デモの先頭に立ったことが彼の「罪」である。

 こうした事例から判断するに、今の米国では、少なくとも外国人には言論の自由はない。凄まじい速度で米国は根本的に変質しつつあるのだ。

 恐ろしいのは、トランプの政策や指示に進んで協力し実行しようとする人間が、閣僚や高官だけでなく、末端で働く職員にも多数存在するということである。ファシズムは一人の独裁者によって形成されるのではない。大勢の人々の協力と服従があって初めて、成立するのである。

 クリントン政権時代に労働長官を務めたロバート・ライシュ氏は、外国からの旅行者や学生、働き手などに対し、米国へ来ることをボイコットするよう呼びかけるコラムを発表した。お金を落として「トランプの経済」に貢献せず、民主主義の蹂躙に対して「ノー」のメッセージを送ってほしいというのだ。実際、今のままではリスクが大きすぎて、僕も米国に行く気にはならない。

(『週刊金曜日』2025年4月4日号)

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