考えるタネがここにある

週刊金曜日オンライン

  • YouTube
  • Twitter
  • Facebook

,

【タグ】

埼玉で在日クルド人の新春祝に現職市議がヘイト行為 条例で規制望む声も

石橋学・『神奈川新聞』記者|2025年5月2日7:43PM

 気高く美しい民族の祝祭を汚そうという差別主義者の妨害がレイシズムの醜悪さを際立たせた。埼玉県南部に集住する在日クルド人が3月23日、春の訪れを祝う「ネウロズ」を開催した。そこへレイシストで同県戸田市議の河合悠祐氏が嫌がらせに現れ、ヘイトスピーチを叫ぶ蛮行に及んだのだ。

祭りの妨害に現れ、差別に反対する市民に追い立てられる河合悠祐氏。(撮影/石橋学)

 中東の民、クルドの人々は「国家を持たない最大の民族」と呼ばれる。第一次世界大戦後、列強が引いた国境線によって居住地がトルコとシリア、イラン、イラクに分断された結果、各国で少数民族として迫害されてきた。ネウロズは弾圧から逃れ、散り散りになった異国でアイデンティティを確かめ合う場であり、民族の解放への願いも込められている。

 さいたま市の県営秋ヶ瀬公園には華やかな民族衣装をまとった約1000人が集い、主催した日本クルド文化協会のシカン・ワッカス代表は「クルド民族は苦しみの中でも希望を捨てずにきた。希望を分かち合い、ともに未来へ歩んでいこう」とあいさつした。「ネウロズ、おめでとう」と歓声を上げ、輪になって踊り続けた。

 河合氏はその最中にレイシスト仲間を引き連れて乱入した。「ネウロズの中止を求める」「PKKという反社会組織のイベントを中止しろ」と大声を上げた。PKKはクルド労働者党の略称。トルコからの分離独立を求めて武装闘争を展開したこともあるが、それをテロとみなすのは抑圧する側、殺す側の論理を鵜呑みにする短絡である。そもそも在日クルド人をテロリスト呼ばわりするのは属性を理由に危険視し、排斥を煽るヘイトスピーチにほかならなかった。

 河合氏が妨害を予告していたことから、待機していたカウンター市民がすぐさま取り囲み、追い払った。それでも脅威を感じざるを得ないほど「クルド人ヘイト」は深い傷を刻んでいる。来日29年のクルド人の男性は「年に一度の祭りですら邪魔をされ、この先何をされるのか」と声を落とした。

デマ広め当選、調子づく

 河合氏はハリウッド映画をまねした白塗りメークで「ジョーカー議員」を名乗る単なるキワモノに過ぎなかったが、東京都知事選の選挙ポスターで女性のヌードを張り出すなどミソジニストの顔をのぞかせ、挙げ句の果てはクルド人ヘイトに便乗し、レイシストに堕していった。今年1月の戸田市議選ではクルド人が治安を乱しているとデマを拡散。トップ当選すると、差別で人心を歪めた結果にもかかわらず「これが民意だ」と調子づく。市民団体「在日クルド人と共に」の温井立央代表は「差別をネタにする行為に歯止めがかからず、政治に利用する人物まで現れた。条例などで規制しない限り、状況は悪化する一方だ」と話す。

 ケバブの出店も並び、日本人も楽しみにしている祭りを守ろうと相模原市から駆けつけた「津久井やまゆり園事件を考え続ける会」の杉浦幹さんも条例の必要性を強調した。「偏見は虐殺にもつながる。払拭するには交流するのが大事だが、差別を広めたいレイシストはだからこそネウロズをつぶしたいのだろう。社会を分断する差別を、ましてや公人にやりたい放題にさせてはならない」

(『週刊金曜日』2025年4月4日号)

【タグ】

●この記事をシェアする

  • facebook
  • twitter
  • Hatena
  • google+
  • Line

電子版をアプリで読む

  • Download on the App Store
  • Google Playで手に入れよう

金曜日ちゃんねる

おすすめ書籍

書影

増補版 ひとめでわかる のんではいけない薬大事典

浜 六郎

発売日:2024/05/17

定価:2500円+税

書影

エシカルに暮らすための12条 地球市民として生きる知恵

古沢広祐(ふるさわ・こうゆう)

発売日:2019/07/29

上へ