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プレサンス冤罪事件国賠訴訟、大阪地裁は国の責任認めず 原告控訴へ

粟野仁雄・ジャーナリスト|2025年5月2日7:34PM


「主文、原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」

 3月21日、不動産会社プレサンスコーポレーション(大阪市中央区)の山岸忍元社長(62歳)が国(検察庁)を相手に約7億7000万円の損害賠償を求めた裁判(※)の判決が大阪地裁(小田真治裁判長)で下った。「棄却と聞いた時『勝つ』という意味やったかな』と思ってしまい混乱した」と山岸氏が閉廷後の会見で語った通りの、まさかの結果だ。

判決当日の3月21日、大阪地裁に入る山岸忍氏(左端)と弁護団。(撮影/粟野仁雄)

 判決は「無罪が確定すれば逮捕・起訴が違法となるわけではない」との最高裁判例を盾に「違法となるのは『当然すべき捜査や証拠評価を著しく誤る重大な過誤』があった時」で、元部下(有罪が確定)が弁護人との接見後に供述調書に署名していることから「検事に精神的に支配されているわけではないとみることもできた」などの理屈で検察を守り抜いた。

 この裁判では、机を叩きながら「検察舐めんなよ」などと山岸氏の元部下を大声で威迫し続けた末「横領に山岸社長が関与していた」とする虚偽供述を引き出した田渕大輔検事(52歳)の、その違法な取り調べの模様を記録した映像が法廷で公開された。裁判所も山岸氏による付審判請求を認め、田渕検事は特別公務員暴行陵虐罪で刑事裁判にかけられることになった。それでもこの判決だ。

「裁判官が検察官の違法行為を擁護した」「第二、第三のプレサンス事件が起きますよ」と山岸氏は憤る。弁護団も中村和洋弁護士が「あれ(映像)を見てこういう判決が書ける裁判官の神経を疑う」。秋田真志弁護士も「裁判長の詰め方を見ていい判断が出ると見誤ってしまった」と臍を噛んだ。

 娘殺しの汚名を着せられた青木惠子さんが雪冤した「東住吉事件」後の国賠訴訟でも、裁判所は大阪府警の違法は認めても大阪地検の違法は認めなかった。プレサンス事件は最初から大阪地検特捜部が手掛けた事件だけに注目された。

狡猾だった山口検事

 山岸氏は2016年、取引会社の社長の依頼で大阪府の学校法人明浄学院に18億円を貸し付けた。他方で同地検特捜部は、同法人の元理事長らを「同法人から土地取引をめぐり21億円を横領した」として逮捕・起訴し、有罪が確定。山岸氏は前述した元部下の供述をもとに共犯として起訴されたが、これが虚偽だったと判明したことから無罪となり、確定した。

 山岸氏は学院の再建資金として貸し付けたが、元理事長はこれを理事長選挙の買収工作用資金などに使用した。捜査で山岸氏自身を担当した山口智子検事は田渕検事よりさらに狡猾で、山岸氏が自分と同じ同志社大学法学部出身だというよしみから、最初の取り調べで「社長さーん、いらっしゃーい」などと接するなど親身を装ったほか、19年12月16日には「社長、こんなん出てしもたやんかぁ。悔しいわぁ」と逮捕状をちらつかせた。これに騙された山岸氏はその後、大阪拘置所で248日間拘束され再三の保釈請求もすべて却下。会社は危機に瀕し、自身も社長を退いた。

「横領などをする動機は、私にはまったくなかった。当時、会社はすごい成長していましたから」と会見で話した山岸氏は、最大時で27人いた弁護士の費用に数千万円かけた。「お金があったから私は何とかなったが、同じことを普通の人がされたら人生を壊される。それが検察捜査の怖さです」と訴え、控訴する意向を明らかにした。

※『週刊金曜日』では2022年4月8日号、同10月21日号、24年6月28日号、今年1月17日号で既報。

(『週刊金曜日』2025年4月4日号)

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