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東京大空襲から80年 米司令官への叙勲取り消しを市民らが政府に要請

北野隆一・『朝日新聞』記者|2025年5月2日7:30PM

 東京大空襲から80年となる3月10日、米軍による日本本土空襲を指揮したカーチス・ルメイ氏に対する日本政府の叙勲を取り消すことを求める市民らが、政府に要請書を手渡した。

カーチス・ルメイ氏への叙勲取り消しを求める要請書を内閣府職員(左)に手渡す具志堅隆松さん。(撮影/北野隆一)

 欧州戦線でドイツの都市爆撃を指揮していたルメイ氏は1945年1月、日本に対する爆撃機部隊の司令官に着任。日本国内各地の空襲を指揮し、爆撃目的を軍需工場から市街地の人口密集地帯に切り替えた。

 東京大空襲について、ルメイ氏は回想録で「近代航空戦史上で画期的なできごと」と自賛した。日本政府は戦後、航空自衛隊発展の功績で64年に勲一等旭日大綬章を授けた。ベトナム戦争で北爆を推進した人物でもある。

 沖縄戦戦没者の遺骨収集を続ける市民団体「ガマフヤー」代表の具志堅隆松さんらは3月10日に国会内で、勲章の法令を担当する内閣府賞勲局職員と面会した。ルメイ氏について「東京大空襲で一晩に10万人以上の市民が焼き殺された事実への悔恨の念などなく、次々と全国の都市の市民を殺戮する無差別爆撃を進めた」と非難。叙勲は「ルメイ氏による日本人の大量殺戮を日本政府が看過したということ」だとして、取り消しを求めた。具志堅さんは「空襲で殺された人を、国は冒瀆しているのではないか」とも述べた。

 賞勲局の職員は「功績調書に、航空自衛隊発展の功績以外の記録は残っていない。功績を覆す事案がない限り、新たに議論することはない」と答えた。

 母が東京大空襲を生き延びたという男性は「母は隅田川に飛び込み、何時間も水中にいて助かった。無差別爆撃により非戦闘員を殺戮するという国際法違反の犯罪者に、なぜ勲章を与えるのか」とただした。

 職員は「国際法上の判断は賞勲局ではお答えできない」としつつ、「すでに当時の国会でも議論され、平成になってからも国会で取りあげられた。議事録はホームページで検索できる」と指摘した。

61年前の国会での議論は

 叙勲当時、どんな議論があったのか。叙勲は64年12月4日、当時の佐藤栄作内閣が閣議決定。来日したルメイ氏は同月7日に埼玉県の航空自衛隊入間基地で勲章を受け取った。

 同じ7日午前、衆議院予算委員会で社会党の辻原弘市議員が質問。ルメイ氏について「わが国に対する空襲攻撃の直接の責任者、指揮官」「広島、長崎に対する原爆投下の指揮官でもあった」として「原水爆反対という国民の悲願に水をさす叙勲をなぜ決めたのか」と尋ねた。

 佐藤首相は「過去は過去、もうすでにそのことを忘れて、新しい事態について功をねぎらうことは当然」と応じた。辻原氏は「今日の国民感情は決して許さないだろう。戦争のことはさっぱり忘れて、その後の功績だけをたたえましょう(というのは)」と反論。小泉純也防衛庁長官の見解を求めた。

 小泉純一郎元首相の父親である純也氏は「戦後の航空自衛隊に対する顕著な数々の貢献に対する勲章の授与。戦時中の問題とは別個に考えるべきもの」と答えた。「原爆投下の前にルメイ氏は転任しており、直接部隊の責任者ではなかった」とも言い添えた。

 12月15日、衆院外務委で社会党の帆足計議員は「勲章をかくのごとき戦犯に誤って与えたことに一人の良心的議員が嘆いていたと記録していただきたい」と強調した。

(『週刊金曜日』2025年4月4日号)

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