リニア訴訟で裁判官忌避申立中に判決日指定の異常事態 原告「裁判は終わってない!」
樫田秀樹・ジャーナリスト|2025年5月2日6:31PM
JR東海が建設を進めるリニア中央新幹線の工事差し止めを求めて係争中の原告の代理人、樋渡俊一弁護士に2月28日、「3月27日を判決期日にする」との電話が東京地裁民事第12部から入った。
樋渡弁護士が代理人を担当する原告は東京の大田区・世田谷区の住民15人だが、そのうちの一人、松本清さんはこの連絡に驚いた。

「私たちの裁判はまだ結審もしていない。それで判決を出すとは、あり得ない話です」
松本さんら原告が、両区の地下40メートルより深い大深度地下で工事を進めるJR東海を相手取り提訴したのは2021年7月19日のことだ。第1回口頭弁論は同年10月26日に行なわれたが、裁判官の訴訟指揮に対して原告側はすぐに疑問を覚えたという。小田正二裁判長(当時)は、原告からの求釈明(被告に答えてほしい質問)に対し「(被告は)すぐに答えなくてもいい」としたほか、原告側が求めた法廷でのパワーポイントによる資料投影も「必要がない」と認めなかった。第3回の口頭弁論から代わった高木勝己裁判長も、前任者とまったく同じ訴訟指揮を展開した。
被告寄りだと思われても仕方のないこの訴訟指揮に対して原告側弁護団は23年10月3日、高木裁判長ら3人への忌避を申し立てた。だが地裁、高裁、最高裁でも却下された末、24年7月16日に審理に戻った高木裁判長はよりいっそう高圧的になっていた。
そうした中で予想もしなかったことが起きたのが、同年10月8日に行なわれた第11回口頭弁論だ。原告側代理人の梶山正三弁護士がトンネル工学者を証人申請すると、3人の裁判官は「協議したい」と告げて退廷。しかし、5分後に戻った高木裁判長は「証人申請は却下します。裁判はこれで結審し、判決は1月28日午後2時に言い渡します」と一気に告げた。
ところがこの「証人申請は却下します」との発言の次の瞬間に、梶山弁護士が「裁判官忌避を申し立てます!」と声を出していた。裁判では忌避申立の時点で審理は中断する。つまり高木裁判長による結審も判決期日の指定もこの時点で無効となったということだ。
実際に高木氏ら3人の裁判官はその後にまた、忌避申立について審理され、地裁と高裁で却下の後で残るは最高裁の判断のみという段階だった。原告が驚いたのは、その最高裁の審理よりも前に東京地裁から冒頭で書いたような形で判決期日が指定されたからだ。
「結審」は成立したのか?
原告は3月10日、前記民事第12部に対し「判決期日指定に関する申入書」を提出。忌避申立が最高裁での決定前である以上、判決期日の指定は「無効」であることを明らかにするよう求めた。翌週の17日には原告と弁護団が東京・霞が関の司法記者クラブで記者会見し、松本さんも「この異常な事態を広く伝えてほしい」と訴えた。
ある弁護士によれば、忌避申立が地裁で却下された後は、高裁に抗告してもそれが棄却された時点で却下が事実上確定したとの扱いを受けるため、原告側が最高裁に特別抗告しても裁判官による判決期日の指定は可能だという。
とはいえかりにそうだとしても、では本訴訟では無効になったはずの結審は、いったいいつ成立したことになるのか? 梶山弁護士は「それはまったくの謎。通常ならば原告と被告の双方に『もう立証事実はありませんか』と確認したうえで結審するのに、それもないまま判決を出すのは異例です」と答えた。樋渡弁護士も「高木裁判長は高裁で忌避申立が棄却されたことで却下が確定したと主張しているものと思われますが、最高裁の判断を待つのは国民の権利で、それをないがしろにするわけにはいきません」と声に力を込めた。
このまま3月27日の判決言い渡しを待てば間違いなく原告敗訴の判決が出る。そこで弁護団は三度目となる裁判官忌避申立を民事第12部に書面で送る用意があると説明した。これが受理されれば同日の判決期日は流れる。この号の発売日にはそれが明らかになっているはずだ。
(『週刊金曜日』2025年3月28日号)