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生活保護のしおりが改訂 市民の力で「社会は変わる」

雨宮 処凛・『週刊金曜日』編集委員|2024年5月24日4:42PM

雨宮処凛・『週刊金曜日』編集委員。

 小躍りしたいくらい嬉しいことがあった。それは本誌5月10日号の「らんきりゅう」に書いた桐生市の件。

 群馬県桐生市で生活保護をめぐり、申請させない、保護費を全額渡さない、10年間で生活保護費が半分以下まで減少しているなど異常なことが起きていることを知り、弁護士や支援者らによって「桐生市生活保護違法事件全国調査団」が結成され(私は呼びかけ人)、4月4~5日、現地入りした。

 そこで県庁に要望書を提出したり、市民集会で問題提起をするなどの活動をしたのだが、その甲斐あって、群馬県が作成する「生活保護のしおり」が大幅に改訂されたのだ(『毎日新聞』4月29日付)。

 改訂されたのは、「一日も早く自分たちの力で暮らしていけるよう」など脱却を促すような記述の削除。

 また、桐生市では通院移送費(病院に通うための交通費)の支給が異常に少なく、年間でわずか2400円(2022年度)。同じ人口規模の他の市では年間400万円以上支給されているのにだ。この少なさの背景を探ると、通院移送費の支給を申請したら「桐生ではやってない」「出さないことになっている」と言われたという信じられないような話も出てくるのだが、新しいしおりでは、無事に通院移送費などが支給されることも記載された。

 ちなみに生活保護を利用すると「車は持てない」と思っている人は多い。今回、桐生市を訪れて感じたのは、「車がないとものすごく不便だろう」ということだ。このようなことから生活保護に二の足を踏む人も少なくないのだが、通院や通勤に必要と認められれば車を持ったまま生活保護を利用できる。が、以前の「しおり」には自動車の保有は「原則として認められません」というそっけない記述。これに関しても、保有が可能な条件が加えられた。

 県が作成する「生活保護のしおり」の内容が改訂される。人から見れば、小さな一歩かもしれない。だけど、こういう小さなことが確実に誰かの命を救うことにつながることを私は知っている。命とまでいかなくとも、生活の改善につながることを知っている。

 貧困問題の活動を始めて18年。「成果」が出ることなんて滅多にないけれど、こうして小さく物事が動くとしみじみと嬉しい。そんな小さな一つひとつを積み上げた先に、「社会が変わる」はあるのだと思う。

(『週刊金曜日』2024年5月17日号)

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