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リニアトンネル建設、都民45人が国の認可取り消し求め提訴 「大深度法は憲法違反」

井澤宏明・ジャーナリスト|2024年4月24日5:53PM

 住宅地の地下を通るリニア中央新幹線の巨大トンネル建設を認めた「大深度地下の公共的使用に関する特別措置法」(大深度法)は平穏生活権を侵害して違憲だとして、東京都の大田区・世田谷区・町田市の住民45人が3月27日、国の認可処分取り消しを求める行政訴訟を東京地裁に起こした。

3月27日、横断幕を掲げ東京地裁に入廷する「NO!大深度リニア訴訟」原告団。(撮影/井澤宏明)

 原告はリニアルートの真上や周辺の住民。大深度法で定める「大深度地下」とは、地下室の建設や建築物の基礎の設置が通常行なわれない、主に地下40メートル以深を指す。「通常は補償すべき損失が発生しない」(国土交通省)ため、地権者の同意を得たり、補償したりする必要がないとされている。

 JR東海は品川―名古屋間286キロメートルのうち、東京都・神奈川県・愛知県の計50・3キロメートルで、直径約14メートルのシールドマシンによる大深度地下トンネルを掘る計画だ。大深度法に基づき申請を行ない、当時の石井啓一・国土交通大臣により2018年10月、認可された。

 これに対して原告らを含む730人が19年1月、認可を不服として審査請求を申し立てたが、国交大臣は20年5月の弁明書で、住民らが工事に伴い発生すると心配する地盤沈下や騒音、振動などを「単なる抽象的な危惧感をいうにすぎない」と否定してみせた。

 ところが20年10月、同じように大深度法の認可を受けた東京外かく環状道路(外環道)のトンネル工事により調布市の住宅地で陥没事故が起きてしまった。被害は広範に上ったものの事業者のNEXCO東日本はトンネル直上の約30軒だけを「仮移転」や買い取りの対象として住宅を解体し、2年間の地盤補修工事を行なっている。

 原告らは訴状で、品川―名古屋間の移動手段は東海道新幹線で間に合っているため、リニアには大深度法が定める「一般の需要」はなく、開業時期も未定で「公益上の必要」もないため、大深度法の要件を満たさないと指摘。さらに、大深度法そのものも、憲法29条2項に定める「公共の福祉」に適合しているとはいえず、周辺住民の「平穏生活権」を侵害するから憲法に反し無効であると主張した。

 また、かりに大深度法が違憲とまでいえないとしても、リニアルートは都市計画法で居住環境が最も強く保護されるべき「第一種低層住居専用地域」を通っているため、大深度法の適用は平穏生活権を侵害し違憲だと念を押した。

地下工事のトラブル続く

 提訴後に記者会見した原告団長三木一彦さん(大田区在住、66歳)は外環道の陥没事故に言及。「かつては平穏な住宅街だったのに、今や騒音が一日中響く工事現場かコンビナートのようになってしまった。あの工事もリニアと同じ大深度法で認可された。違憲な大深度法に基づく違法な認可がまかり通っているのを黙って見ているわけにはいかない」と訴えた。

 原告代理人の島昭宏弁護士も地下トンネル工事で陥没事故が頻発していると指摘。「生活の場が壊され人権侵害を伴う。大きい、高い、速い、を安易に求める価値観が通用しない時代に、リニアを造ろうとすればこんなリスクがある。これからの時代に必要か、裁判では議論していく」と強調した。

 JR東海は住民説明会で「リニアには外環道陥没事故が発生した『特殊な地盤』はないと考えている」と違いを強調したものの、大深度地下工事はトラブル続きだ。

 北品川非常口から21年10月、「調査掘進」を開始したがシールドマシントラブルを繰り返し、約300メートルのうち約2年半で124メートルしか進んでいない。愛知県春日井市の坂下非常口では同マシンのカッタービットが破損し40センチで停止。提訴後の4月8日に北品川で掘進を再開し、坂下と名古屋市の官庁街にある名城非常口で新たに調査掘進を始めた。

 JR東海の丹羽俊介社長は3月29日、品川―名古屋間の「2027年開業断念」を公式に表明した。

 今回の提訴について国交省は「訴状が届いていないので、特にコメントはない」、JR東海は「特に申し上げることはない」としている。

(『週刊金曜日』2024年4月19日号)

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