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核のごみ処分場「文献調査」争点の長崎県対馬市長選、自公推薦の現職が勝利

佐藤和雄・「脱原発をめざす首長会議」事務局長|2024年3月12日4:41PM

 3月3日に投開票された長崎県対馬市長選挙は、原発の使用済み核燃料から出る高レベル放射性廃棄物(いわゆる「核のごみ」)の最終処分場に関する「文献調査」を受け入れるかどうかが大きな争点となり(※注)、受け入れに反対する比田勝尚喜市長(69歳)が賛成派候補を引き離し、3選を果たす結果となった。最終処分場としての適性を判断する第一段階の文献調査は、政府が最終処分場づくりのために力を入れている重要施策だが、自民、公明の政権与党は比田勝氏を過去2回の選挙と同じように推薦するという異色の構図となった。

対馬市長選での第一声で「文献調査を受け入れない判断」の継続を強調する比田勝尚喜市長。(提供/糸瀬敬一氏)

 対馬市議会は昨年9月、文献調査をやるべきだとの請願を僅差で採択。一方、同じ9月議会で比田勝市長は「市民の合意形成が不十分である」「対馬は長崎県なので被爆県の一部。最終処分場については、なかなか長崎県民としては受け入れがたい」などの理由を述べて、文献調査の受け入れに反対を表明した。

賛成派候補の後ろには

 比田勝氏はその際、「次の市長選は、私個人は(文献調査問題を)あまり争点にしたくないと思っている」と述べているが、実際にはそうはならなかった。

 選挙戦で比田勝氏と一騎打ちとなった荒巻靖彦氏(59歳)は、前回市長選にも立候補した大阪府の飲食店経営者。前回選挙に際して『長崎新聞』の質問で立候補への動機については「在日特権を許さない市民の会(在特会)や、日本第一党の活動をしてきた中、韓国との関係で経済が左右される対馬の現状を憂いてきた。国内客も含めて観光は水物で、浮き沈みが激しい。観光業に頼らない安定した経済政策を進めていこうと、一念発起して大阪から出馬した」と回答している。

 さらに最終処分場の誘致について「誘致できれば対馬は日本の誇りの島となる」と回答。今回も、文献調査受け入れを争点にする発言を続けてきた。

 また、荒巻氏の後ろには、市議会で文献調査受け入れの請願に賛成した議員たちがつき、選挙戦を支援していた、との指摘もある。

 比田勝氏はそうした動きをしっかりとらえていたのだろう。

 2月25日の第一声ではこう述べた。

「私は昨年9月、議会におきまして、核ごみ処分場の文献調査については受け入れないという判断をいたしました。議会における請願採択についても重く受け止めながらも、市民の将来、そして生活を考えたときの苦渋の判断でございました。この判断を今後も胸に刻みながら、誰一人取り残さない、この対馬を作り上げてまいりたい。持続可能な対馬を、磨きあげていきたい。そのように考えているところでございます」

 3月3日の選挙結果は比田勝氏が1万3306票、荒巻氏が1725票。同じ顔触れとなった前回選挙と同じような結果となった。文献調査賛成派の市議の支援はさほど影響しなかったようだ。

 文献調査受け入れの反対運動に取り組んできた「核のごみと対馬を考える会」代表の上原正行さんはこう語った。

「圧倒的多数で勝利した。結果的に(文献調査に関する)住民投票のようなものだ。反対派の人たちが自分事と考えて行動したのが結果となった」

※注:『週刊金曜日』2023年9月22日号・10月13日号で既報。

(『週刊金曜日』2024年3月8日号)

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