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「女らしさ」「男らしさ」を押し付ける就活にNO!

三浦美和子・ジャーナリスト|2024年2月13日3:09PM

〈突然ですが、お手元のパソコンやスマートフォンなどで「就活 服装」と検索してみてください〉との呼びかけで始まる署名活動を展開するのが「SSS(Smash Shukatsu Sexism)」だ。就職活動(就活)において一方的な「男らしさ」「女らしさ」を押し付けるあり方を「就活セクシズム(性差別主義)」とし、問題提起している。

文部科学省に署名を提出後、記者会見に臨むSSSの水野優望さん(左)と篠原匡朱子さん。2023年4月(提供/水野優望)

 実際、ネットで「就活 服装」と検索すると、「男性は短髪にしてハキハキと答えリーダーシップを」「女性は上品な化粧で優しい雰囲気に」などと服装、髪形、靴からお辞儀の仕方に至るまで男女別の指南が現れる。「化粧は社会人のマナー」と言い切り、パーマや男性の長髪を否定するなど、「べき論」のオンパレードだ。

 SSSは、このような男女二元論や性差別に基づく「就活マナー」を変えるべく、2020年11月から就活関連企業への抗議や署名活動を展開。就活情報会社大手のマイナビやリクルートキャリア、リクルートスーツを販売するAOKIや青山商事などのほか、全国の高等教育機関や大学生協に対し「極端に二元化した男女別スタイルやマナーの押し付けをやめて、多様性のある装いのスタイルを提案すること」「女性はこうすべき、男性はこうすべきという偏った表現は差別や抑圧につながるため見直すこと」を求めてきた。

 異議を唱える声は徐々に広がり、「#就活セクシズムをやめて就職活動のスタイルに多様性を保証してください!」という署名への賛同は、現在3万4000筆に届こうとしている。

 SSSはこの度、「就活の未来」「キャリアパーク」「PORTキャリア」などを運営するポート株式会社に対し、「女性は就活で化粧をしなさい」という指南をやめるよう抗議文を送った。SSS呼びかけ人の水野優望さんによれば、同社には「これまで何度も抗議・説明し、その都度前向きな回答をもらう、ということを繰り返してきたが、改善する様子が見られない。そのため記事の取り下げと、性差別に関して学んでもらうことなどを要望した」という。

 水野さんが活動を始めたきっかけは、自身の就活体験にある。「『女子は化粧をしてストッキングにヒールをはく』といった就活情報があふれていた。それまでは性別に関係なく学生生活を過ごしていたのに、突然、方々から手が伸びてきて自分が性的な鑑賞物として作り変えられていくような気持ち悪さを感じた」と話す。

大学と企業の責任転嫁

 当時、SNSには自分と同じように就活セクシズムに苦しみ、怒る学生の声が無数にあったが「そのころはこれが差別だと気づけなかった。社会に訴える方法があることも知らなかった」と水野さん。苦しいのは自分が間違っているからだという思いは消えず、就活を続けることができなくなった。

 そんな水野さんの背中を押したのは、差別に声を上げ、変えようとする人々の姿だった。19年には職場でのパンプス・ヒールの強制をなくそうと石川優実さんが始めた「#KuToo」運動にも参加。「自分や多くの学生が感じてきた『怒り』を、なかったことにはしたくないと思った」とふりかえる。

 水野さんが憤るのは「就活関連企業も専門学校・大学側も責任の押し付け合い」という構造だ。「選考はブラックボックスで本当の採用基準は不明。それなのに就活関連企業は『採用側がどう思うかわからないから化粧しておいた方がいい』と言い、就職率を気にする大学側は『だったらそうした方がいい』とする」と指摘。「大学側は本来、学生の側に立って『こういう表現は性差別だから駄目です』と言うべき。でもそれを受け流して差別を拡散・再生産している。そして一番弱い立場の学生が主体性を奪われる」と批判する。

 SSS発足から4年。活動はメディアでたびたび取り上げられた。署名受け取りすら拒否する企業がある一方、以前はヒール付きの靴しかなかった「就活コーナー」にヒールのない靴を並べるようになった企業もある。上げ続けた声が変化につながっている。

 水野さんは「就活の場に限らず、社会規範として性別二元論や性差別が蔓延している。就活本や就活サイトに怒るだけではなく、社会全体の問題になるようにもっと『声』を大きくしていきたい」と展望を語った。

(『週刊金曜日』2024年2月9日号)

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