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ヘルパー国賠訴訟の控訴審判決、原告側主張を一部認めるも国の責任認めず

西村仁美・ルポライター|2024年2月13日4:27PM

 厚生労働大臣の諮問機関、社会保障審議会の介護給付費分科会が1月22日、国の介護事業経営実態調査(以下、経営実態調査)に基づく訪問介護の基本報酬引き下げ方針を発表。これを受け、関係する市民団体や一般社団法人などが抗議声明を出したり抗議文を厚労大臣に提出するなど、在宅介護をめぐる動きが慌ただしくなっている。

判決後の報告集会。晴れやかな表情で語った原告3人。(撮影/西村仁美)

 そうした中で2月2日、登録型の訪問介護員(ホームヘルパー)ら3人が、介護の現場における労働基準法違反の環境に厚労省が規制権限を行使しないのは違法だとして国に損害賠償を求めた裁判(本誌昨年11月17日号などで既報)の控訴審判決が東京高裁であった。谷口園恵裁判長は冒頭、硬い表情で「原告らの請求を棄却する」と告げたが、その後約15分にわたり判決要旨を読み上げた。

「訪問介護の現場一般において、賃金支払に関する労働基準関係法令の遵守や、賃金水準の改善と人材の確保が、長年にわたり政策課題とされながら課題の解消に至っていない事実は認められる」(判決より)など原告側の主張の一部は認められた。だが、結論としてはその実態が「許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くとは認められない」として棄却する内容だった。

 当日は定員約40人の一般傍聴席

を求め、原告側支援者など74人が列をなした。他方、国側が座る被告席は今回も空席のままだった。

 その後の報告集会で原告側主任代理人の山本志都弁護士は、まさに現在問題となっている訪問介護基本報酬引き下げ方針の根拠に挙げられている経営実態調査のおかしさを「この裁判ではずっと主張してきた」と、意義を強調。請求が棄却されたとはいえ、原告側が立証すべく独自に実施したアンケート調査結果などに基づく主張を裁判所も一部取り入れていたことについて「一定の効果を得ることができたと思う」と話した。同じく代理人の大棒洋佑弁護士も、国賠訴訟のハードルの高さを感じつつ、一審判決より踏み込んだ判決内容には一定の評価をしていた。

判決から見えた一筋の光

 原告3人も同様の評価だった。「この裁判を通じケアを『社会の柱』にしたいと思うようになった。ケアは『暮らしの継続』にとっても切り離せない存在です。保育や教育、医療などとともに社会の中心に据えることで、暮らしや人間の心がもっと豊かになっていく」(藤原路加さん)

「ケアする人・される人ではなく、みんなが『ケアする人』になりましょう。国が変わることなど待っていられない状況。自分の暮らす町で、隣り近所で助け合う仕組みを作りながら国に文句を言っていけばいい」(伊藤みどりさん)

「国は事業所の大規模化を言い続けているが、訪問介護の基本報酬の引き下げで、公権力を利用して在宅介護を危機に追いやろうとしている。私たちはそれに立ち向かわなくてはいけない。もっと多くの人たちと繋がっていきたい」(佐藤昌子さん)

 3人とも一見敗訴とは思えない穏やかな、自分たちでも「棄却されたのに勝ったかのよう」(伊藤さん)というような表情で、判決の先にあるものを見据えていた。

報告集会後、場所を国会周辺に移しての抗議アクション。(撮影/西村仁美)

 深刻なヘルパーの人手不足は国も認めているところだ。国の調査によればヘルパーの有効求人倍率は15・53倍(最新の2022年度データ)。人手不足を感じている事業所の比率も約8割にのぼる。23年の訪問介護事業所の倒産は、60件と過去最多だ。冒頭に挙げた介護給付費分科会による意見聴取でもほとんどの団体が訪問介護の基本報酬の引き上げを求めていた。原告らは、それぞれの目標を胸に、上告を検討中だ。

(『週刊金曜日』2024年2月9日号)

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