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「袴田事件」弁護団長の西嶋勝彦氏が死去 
“雪冤”への思いを句に遺す

粟野仁雄・ジャーナリスト|2024年2月9日8:32PM

「袴田事件」弁護団長の西嶋勝彦弁護士が1月7日死去した。82歳。近年は間質性肺炎を患っていた。

 福岡県生まれ。中央大学卒業。今よりずっと難関だった司法試験に合格して1965年に弁護士登録。八海事件、徳島ラジオ商殺し事件、島田事件などの著名な冤罪事件を手掛けた。袴田事件は第1次再審請求の90年頃からかかわり、2004年から団長を務めた。

1月17日、再審期日後の弁護団会見の席に飾られた西嶋勝彦団長の遺影。(撮影/粟野仁雄)

 西嶋氏をよく知り、葬儀で弔辞を読んだ「袴田巖さんを救援する清水・静岡市民の会」(楳田民夫代表)の山崎俊樹氏(69歳)は「厳格な人。声はドスがきいて野太い。最初は怖くて話しかけられませんでした」と懐かしく話す。そんな西嶋氏が一番嬉しそうな表情を見せたのは「何と言っても袴田(巖)さんが釈放された14年の静岡地裁での再審開始決定です。怖い印象の先生が満面笑みでした。病躯を無理して頑張ってくださった」。恒例の自作の俳句(後述)をしたためた年賀状が今年も届き、年始でお会いする際にお礼を言おうと思っていたのにと悔しがる。

 東京高裁での第2次再審請求審(14~18年)や、ついに昨年10月から始まった静岡地裁での再審(本誌昨年11月10日号など参照)では車椅子、酸素ボンベを装着という姿で、毎回欠かさず静岡地裁まで通っていた。閉廷後の弁護団記者会見では事務局長の小川秀世弁護士に大半を語らせていたが、楽観的な見通しを小川氏が語ると「まだまだ油断できない」と横から引き締める姿が印象的だった。

 小川氏は「多くを語らない人で堅い印象でしたが、弁護団会議に支援者を参加させるなどの配慮をするようになった頃から、温厚になった気がします」と振り返る。

「西嶋先生からは、僕が『もっと(警察の)証拠捏造を強調すべき』『警察の偽証罪も再審理由にしてゆくべきだ』と少々突出した意見を述べた時にも最初は戒められたけど、最後には認めてくださった。会議で多くの弁護士たちの意見がまとまらなかった時も、最後にはどっしりと構えた先生がまとめてくださったんです」(小川氏)

 1月16日と17日の再審期日後の記者会見では、巖さんの姉の袴田ひで子さんと弁護団が西嶋団長の遺影を飾って記者会見に臨んだ。ひで子さんは「もう感謝の思いしかありません」などと話した。

再審開始確定で見せた涙

 2年ほど前、西嶋氏は東京都内のお茶の水合同法律事務所で筆者のインタビューに応じてくれた。14年の静岡地裁、村山浩昭裁判長(当時)による再審決定時を振り返り「再審開始はある程度予想をしていたが、まさかすぐ(巖さんを)釈放するとは思わなかったんで慌てちゃったよ」と打ち明けた。再審請求審では東京高裁が捏造に触れずに再審開始の決定文を書くことはできるのですかと訊くと、しばし考えた後「うーん、それは難しいなあ」と呟いていた。

 だが昨年3月、東京高裁の大善文男裁判長は「捜査機関の捏造」を明記した再審開始決定を行ない検察もそれに対する控訴を断念。再審開始が確定したことを受けて東京で開かれた会見で西嶋氏は、「巖さんに一刻も早い再審開始を」と声を振り絞り、公の場で初めて涙を見せた。この時、筆者は浜松市にある袴田さんの自宅で巖さんとひで子さんと一緒にいたため、その涙を見ていない。今年中には出るはずの無罪判決の暁には今度こそ西嶋氏の、再度の感涙を間近で見たかった。

 ひで子さんは1月24日、筆者の取材に対し、西嶋氏との思い出を改めて次のように語ってくれた。

「最初の頃はすごく威厳があってあまり話もできなかった。それが健康を害された頃から丸くなったのか、親しみやすくなりましたね。昨年12月20日の再審期日では待合室で一緒に冗談を言い、大笑いしましたけど、それっきりになるなんて……。あと半年生きて巖の無罪判決を見ていただきたかった。運命かもしれないし残念だけど、安心して旅立たれたと思います」

 西嶋勝彦氏、最後となった年賀状での自作句は以下である。

 春が来る 袴田姉弟 雪冤だ
 小春日に 駿河路通い 車椅子

(『週刊金曜日』2024年2月2日号)

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