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朝鮮人追悼碑を群馬県が代執行で撤去 
許すまじ「歴史否定」の暴挙

安田浩一・ジャーナリスト|2024年2月9日8:16PM

「歴史」そのものが壊されようとしている。群馬県高崎市の県立公園「群馬の森」に市民団体が設置した朝鮮人労働者追悼碑について、県は行政代執行による撤去作業に着手した。1月29日、公園は全面閉鎖された。追悼碑周辺は重機進入に必要な樹木伐採が終了し、20年間にわたって「記憶 反省 そして友好」を訴えてきた追悼碑の撤去は時間の問題となった。

群馬県高崎市、県立公園「群馬の森」の朝鮮人追悼碑。(撮影/安田浩一)

 戦時中に労務動員された朝鮮人犠牲者を悼む目的で追悼碑が設置されたのは2004年。市民団体の請願を県議会が全会一致で採択した結果によるものだった。「群馬の森」公園は、日本における〝ダイナマイト発祥の地”として知られる。かつては陸軍の火薬製造所があり、関連施設の遺構は今も公園内に点在する。

「そうした場所だからこそ追悼碑を設置する意味があった」と話すのは、碑を管理する市民団体「『記憶 反省 そして友好』の追悼碑を守る会」の石田正人さん(71歳)。県内では中島飛行機地下工場をはじめ、鉄道、ダム建設現場などで多くの朝鮮人が労務動員された。過酷な労働現場で命を落とした人も少なくない。追悼碑は文字通りに「追悼」の気持ちを表すだけでなく、歴史を省みると同時に、被害者の思いに応え、ともに未来を築くために設置された。

 追悼碑には「記憶 反省 そして友好」の文字が刻まれ、裏面には以下のような文言が記される。〈20世紀の一時期、わが国は朝鮮を植民地として支配した。また、先の大戦のさなか、政府の労務動員計画により、多くの朝鮮人が全国の鉱山や軍需工場などに動員され、この群馬の地においても、事故や過労などで尊い命を失った人も少なくなかった。(中略)過去を忘れることなく、未来を見つめ、新しい相互の理解と友好を深めていきたいと考え、ここに労務動員による朝鮮人犠牲者を心から追悼するためにこの碑を建立する〉

 公有地に建てられた初めてのケースということもあり、設置当初より注目を集め、全国各地からの見学者が絶えなかった。

 追悼碑は10年ごとに使用許可が更新される予定だったが、14年、県は突然、更新を認めず、市民団体に撤去を通知した。団体が開いた追悼式典で出席者が「強制連行」などの言葉を使ったことが、政治的行事を行なわないとの条件に反したというのが理由である。

右翼勢力の執拗な攻撃

 さらにこうした県の判断を後押ししていたのが右翼勢力である。

 歴史否定と人種差別活動を展開してきたレイシスト集団は更新不許可の決定前から、追悼碑が「反日的」であるなどと主張。県議会の保守系会派へのロビイングを行なうと同時に、県担当部署への抗議申し入れ、市民団体に対する攻撃を繰り返してきた。県の更新不許可処分は、レイシスト集団に導かれたものでもあった。

 その後、県の処分の適法性を争った裁判が行なわれたが、22年6月、最高裁で県の勝訴が確定した。これは追悼碑によって「憩いの場としての公園にあるべき施設としてふさわしくない」とする県の主張を全面的に認めたものだった。だが市民団体はこの10年間、一度も慰霊碑前で追悼式などの行事を開いていない。公園の静穏を乱してきたのは街宣車で怒声を飛ばすなどしてきた右翼勢力の側だ。つまり裁判所は「騒いだ者勝ち」の判断を下したことにもなるのだ。

 1月28日、追悼碑の撤去を惜しむ人たちが全国から集まり、それぞれが花を手向けた。“見納め”の集いではあったが、ここにも戦闘服着用の右翼団体が乱入、威嚇を繰り返したが、集まった市民らに「帰れ」と一喝され、すごすごと引き下がる姿もあった。

 県は公園の閉鎖期間を2月11日までとしている。この期間内に追悼碑は撤去されるはずだ。だが、それは「追悼」の終わりを意味するものではない。

「あきらめない。壊されてもまたつくればいい」

 追悼碑前で多くの人がそう訴えるのであった。歴史否定を進める側にこれ以上の成功体験を与えてはならない。

(『週刊金曜日』2024年2月2日号)

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