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中野区で実施された自衛隊参加の「ミサイル避難訓練」の実態とは

西村仁美・ルポライター|2024年1月30日6:50PM

 有事法制の一環として2004年に成立、公布された国民保護法(武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律)に基づいた「国民保護共同訓練」が、05年度以降ほぼ毎年、全国各地で順次行なわれている。

中野駅前の公園に集結した警察、消防、自衛隊からの訓練参加者。(撮影/西村仁美)

 参加機関は内閣官房や消防庁のほか当該の都道府県や市町村等。東京都では今年に入り1月15日に中野区で「X国から弾道ミサイルが発射され、我が国に飛来する可能性があると判明」し「都内上空を通過する際、ミサイルの一部が落下し、付着していた化学物質による被害が発生」したとの想定で実施されたが、今回は参加機関に前記のほか警視庁や自衛隊も名を連ねたことが波紋を呼んでいる。

 訓練場所となったのは、区内の都営大江戸線東中野駅と区立中野四季の森公園。参加者は都の職員や陸上自衛隊員など総勢83人。訓練は前半と後半に分かれ、当日筆者は双方を現場の近くで取材した。まず午後1時30分からの前半は、都の緊急一時避難施設でもある東中野駅の構内を用いた避難訓練。ミサイル発射を告げるJアラートが出たとの設定で始まると「避難役」とされた中野区民12人が同駅の出入り口付近から階段を下り、地下駅構内奧の行き止まり区画に設置された「避難場所」まで、実にゆっくりとした足取りで歩くのが見えた。避難場所に着いた12人らはその場で頭を両手で抱えて数分間、みんなで輪になってしゃがみ込んだ後、避難解除となった。

 避難役に取材を試みたが、参加の動機を問われても「知り合いに誘われたから」と答えるのみで、問いかけに終始無言の人もいた。出入り口付近の地上では、訓練に反対する複数の団体の人々が「戦争の準備をするな!」「いま大事なのは災害対策。こうしたことに税金を使っていいのか」など抗議の声を上げていたが、都の職員と参加者は別の出入り口から地下に入り、粛々と訓練を行なっていた。

都の担当者の説明も曖昧

 後半はJRで一駅隣りの中野駅前から徒歩数分の中野四季の森公園に移動して実施。東京消防庁(ハイパーレスキュー隊など)、警視庁(機動隊化学防護部隊)、陸上自衛隊(第1特殊武器防護隊など)が参加した。こちらは前述のミサイル一部落下による被害を想定した救出・救助が中心。まず真っ先に現場に入った消防が状況を確認のうえ全体の指揮を担当。警視庁は化学物質特定のための検知、自衛隊は、現場の除染などを行なっていた。

地下鉄駅構内での住民12人による「避難訓練」。(撮影/西村仁美)

 区民からは、前出の東中野駅に近い2町会の住民が訓練に参加。62歳の町会会長は「体験してよかった。化学物質の除染がどのようにして行なわれるかなどを知らなかったので、この経験を近所に周知したい」などと話した。

 また、小池百合子都知事も来場。日本の周辺での北朝鮮による弾道ミサイル発射など「深刻かつ重大な脅威」の下「危機的状況の中で整然とした行動がとれるかどうかが問われている」などと挨拶した。

 都の総務局総合防災部国民保護計画担当、高橋睦身課長は訓練後の会見で参加者数の少なさについては「場所が狭いため安全性を優先した」と説明。だが現実の被害時における地下鉄駅への避難想定人数を問うと「そこまでは考えていない」と語った。前記の「化学物質」についての説明も曖昧だった。一方、中野区総務部防災危機管理担当の杉本兼太郎部長は「安心安全を守るための必要な訓練と考える」とし、「昨年5、6月頃に都から話があり、必要な取り組みだとして受け入れた」と回答した。

 訓練反対の街頭活動を行なっていた中野区在住の本間裕子さん(70歳)は「Jアラート発令など腹立たしい。いたずらに危ない雰囲気を煽っているだけ」と語った。

(『週刊金曜日』2024年1月26日号)

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