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完全オンライン「ZEN大学」、天下り批判等めぐり名誉毀損訴訟

岩本太郎・編集部|2024年1月19日5:03PM

“日本発の本格的なオンライン大学”を謳い、IT大手のドワンゴが日本財団と共同で新設に向けた準備を進めている「ZEN大学」を巡り裁判が持ち上がっている。

三宅芳夫氏(上:Fedibird)、「かわんご」こと川上量生氏(下:X)それぞれのSNS投稿。

 通学不要、オンライン授業のみで卒業可能というそのスタイルはもとより、1学部のみで入学定員5000人という規模の大きさ。さらにはチェアマン(総長)に鈴木寛氏(元文部科学大臣補佐官)、設置準備団体代表理事に山中伸一氏(元文部科学事務次官)という、安倍晋三政権を支えた2人が就任したことなどを挙げつつ、SNS投稿でそのあり方に疑問を呈した研究者に対し、ドワンゴ創業者の川上量生氏が投稿の削除と謝罪を要求。後に名誉毀損訴訟を起こす事態となったことがネット上でも話題を呼んでいるのだ。

 投稿者は千葉大学大学院社会科学研究院教授の三宅芳夫氏。昨年6月に開かれたZEN大学についての発表会を動画で視聴後に、SNSサービス「Fedibird」でドワンゴなどのほかに〈「天下り問題」で引責辞任した元文部次官(事務方)トップが総揃いで関与している〉、あるいは同大学が私立大学として認可されれば国から私学助成金を受け取る以上、認可に至った過程を市民には知る権利がある、などの主張を投稿の中で行なった。

 これに対し川上氏が謝罪および投稿削除を要求。三宅氏が拒んだところ、さらに川上氏は8月25日、削除と損害賠償550万円と裁判費用支払いを三宅氏に求める名誉毀損訴訟を東京地裁に提起した。なお同大学の設置準備団体である一般社団法人「日本財団ドワンゴ学園準備会」からは三宅氏あてに前記と同様の通知が送られてきたとのことだが、裁判自体は川上氏個人が原告となる一対一の様相だ(ただ川上氏はこの問題に関する三宅氏の投稿をネット上で広めた他のユーザーに対しても別途訴訟を起こしている)。三宅氏は自身への提訴を、批判的論評の封殺を狙った、いわゆるSLAPP訴訟に当たるとして、今年1月10日には東京の参議院議員会館内で記者会見。反訴は考えていないとする一方で、和解の意思はなく、判決が出るまで闘う意向を表明した。

このために省令変更?

 ZEN大学は2025年4月の開学を目指して準備中とされる。前記「準備会」代表理事(理事長)の山中氏が17年、文部科学省による組織的再就職あっせん(つまり天下り)問題の責任を取る形で当時務めていた駐ブルガリア大使を辞めた件は当時広く報じられた。その同氏が同年末にはドワンゴに顧問として迎え入れられ、翌年からは通信制高校の「N高校」などを運営する学校法人「角川ドワンゴ学園」の理事長に就任している。同大学は準備会でも理事を務める川上氏の下で進められてきた教育事業の延長線上にあると言える。

 ただ、昨年6月の発表会段階で同大学は文科省の大学設置・学校法人審議会への申請前だった。にもかかわらず講師陣などの詳細な内容がその場で公表されたことも含めて気になった三宅氏はそこから独自に調査。その結果、前記のような運営者の顔触れに加え、文科省の大学設置基準がその前年の22年12月に、あたかも「ZEN大学を創設するために行われた改正であるかのよう」(北海道大学大学院教育学研究院教授・光本滋氏の作成資料より)に変えられていたことを知ったという。

 他方、訴状によると川上氏は、SNS上での三宅氏の投稿内容が「いずれも事実に反するもので、何らの根拠なく準備会を不当に批判するもの」だとし、これにより自身が「名誉毀損に伴う多大なる損害を被った」と主張。提訴前に送付した通知書に対して三宅氏がSLAPP訴訟だと指摘したことについては「全くの失当である」と反論している。

 なお裁判は三宅氏側からの反論を受けた形で、次回の2月1日午後3時からの期日では川上氏側の反論が行なわれると見られるが、ウェブ会議方式で行なわれるため傍聴は不可能とのことだ。

(『週刊金曜日』2024年1月19日号)

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