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多様性重視の経営で活性化 
地域の人口流出課題に挑む企業

宮本有紀・編集部|2024年1月15日7:22PM

 共同通信社が事務局を務める「地域からジェンダー平等研究会」では、都道府県ごとの男女平等の度合いを可視化する「都道府県版ジェンダー・ギャップ指数」を2022年から毎年公表している。「世界最低レベルにある日本のジェンダー平等を各地域から底上げしていこうというもの」(山脇絵里子・同社編集局次長)だ。

「運輸会社は男性中心だから、最初、女性の登用にはマイナス意見がたくさん出たが、継続的に考え方を伝えることで男性社員の意識が変わってきた」と話す鍋嶋洋行氏(右)。左はポーラの及川美紀氏。(撮影/宮本有紀)

 世界経済フォーラムによる国際版のジェンダー・ギャップ指数は政治、経済、教育、健康の4分野で評価するが、この指数は政治、経済、教育、行政で評価。「健康」ではなく「行政」を入れるのは「医療技術の高い日本では健康の地域格差は大きくないが、行政の差はとても大きい」(研究会主査の三浦まり上智大学教授)からだ。

 この指数をもとに、経済分野の課題を語り合うシンポジウム「地域からジェンダー平等を」(主催:共同通信社)が23年12月11日、東京都内で開催された。三浦氏のほか、㈱ポーラの及川美紀社長や大橋運輸㈱の鍋嶋洋行社長らが登壇。会場とオンラインあわせて約300人が参加した。

 今回、経済分野に注目したのは、地域の人口流出問題に向き合うため。三浦氏は「大学進学や就職による女性の流出に危機感をもつ経営者や自治体関係者が多い。女性にとってその地域に残る魅力があること、自分のキャリアにみあった魅力的な雇用があることが重要。ジェンダー格差を解消するということは、その地域が持続性を発揮して活性化するために重要な課題だ」と指摘する。

 23年の経済分野で男女格差の少ない地域は1位沖縄、2位徳島、3位鳥取、4位東京、5位岩手……という順位。ただ「男性の賃金水準が低いところは男女が平等に見えてしまう」(山脇氏)点は注意が必要だ。三浦氏は「男性の水準を下げるのではなく高い男性の水準に女性をひき上げる格差解消が目標」と解説した。

 化粧品製造・販売で全国展開する㈱ポーラの及川社長は「従業員の75%が女性だが管理職の女性比率は31%。同じ能力の人を採用して同じように育てていれば管理職比率は半々になるべきだが、そうなっていないところに当社の課題がある」と自省。同社は女性の本音を聞くカフェを設け、「リーダーを目指したいがロールモデルが身近にいない」「キャリアや成長支援がもっと欲しい」などの思いを聞き出し、社員満足度を高める努力を続けているという。

育児しながら管理職

 育児中の女性のキャリア育成に障害となる長時間労働についても議題に。「いまの20代~30代は男女問わず、育児しながら生活できるか、長時間労働の中で潰されないかを課題として感じている」と指摘する及川氏は、育児しながらの管理職業務を実践してきた。その理由は「育児しながら18時に帰る仕事の仕方を常態化するためには自分が管理職になるしかない」からだった。及川氏で前例ができた同社ではいま、「子育て世代も多く効率の良い仕事をしてくるので、残業時間は減った。効率性、生産性ではポジティブな結果が出ている」(及川氏)という。

 同様に、短時間勤務の女性管理職を誕生させたのが愛知県に拠点を置く大橋運輸㈱。「子育て期の女性でも働きやすいよう、週3勤務、1日4時間から、出社は午前午後と自由。多様な業種で活躍する女性が増え、短時間勤務の管理職も生まれた」と鍋嶋社長は話す。

 同社は自動車部品輸送を中心に、引っ越しや生前整理、遺品整理などを業務とする社員99人の会社だ。人口減少時代に備え、10年前から多様な視点を取り入れるダイバーシティ経営を始めた。外国人や障害を持つ人を採用し、LGBTQ当事者も複数の部署で活躍する。これらの取り組みの結果、年々求人応募数が増え、現在は他府県からの応募もあるという。

 さらに、同社では女性社員の声で遺品整理など新たな業務が生まれ利益に結びついた。「男性比率が高いままでは、いろいろなサービスが生まれていなかった」と鍋嶋氏。「人口が減少する今後、ダイバーシティは必要不可欠。女性が働きやすくなければ多様な人が働きやすくならない」と強調した。

 山脇氏は「日本は性差別だけでなく地域格差も非常に大きい。生まれ育った場所や性別に関係なく、誰もが能力を十分に発揮できる社会にするため、各地域から動きを活発化することに皆さんと力を合わせていければ」と話した。

※都道府県版ジェンダー・ギャップ指数の詳細はhttps://digital.kyodonews.jp/gender2023/paid_ranking

(『週刊金曜日』2024年1月12日号)

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