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〈「くじ引き民主主義」の導入を〉想田和弘

想田 和弘|2024年1月12日7:08PM

想田和弘・『週刊金曜日』編集委員。

 自民党の派閥の裏金問題は、日本の権力の中枢にいる政治家たちが人々の利益のために政治をしているのではなく、私利私欲のために公共の財産を食い荒らす利権集団となっていることを改めて印象づけた。

 そもそもあれだけ世襲議員が多いことは、日本の政治が貴族政治に先祖返りしていることを意味する。消費税増税にしろ、大量殺人費(いわゆる防衛費)倍増にしろ、米軍基地の辺野古移設にしろ、原発推進にしろ、インボイス制度にしろ、保険証廃止にしろ、国立大学法人法改悪にしろ、五輪にしろ、万博にしろ、人々の利益にならぬ政策がゴリ押しされるのは、それらが貴族の利益になるからだ。今回の騒動で政治資金規正法が抜け穴だらけのザル法であることが発覚したが、貴族が貴族の利益のために法律を作るのだから、当たり前である。

 では野党に政権交代すれば万事解決するのかといえば、そう単純でもない。それは米国の政治が、民主党と共和党という二つの貴族集団が交代で支配するものに堕していることからも推察できる。選挙を通じた間接民主制は、おそらく制度疲労が生じているのであり、デモクラシーを復活させるには、別の工夫が必要なのである。

 そこで僕が提案しているのは、「くじ引き民主主義(ロトクラシー)」の導入である。ジェンダーや職業、年収など、国や自治体の人口構成をできるだけ正確に反映した議会を作るため、くじ引きで議員を選ぶのだ。男女は半々。いろんな職業の、いろんな利害の人が、議会を構成する。議員として働く間は、社会の平均的な収入を保障される。

 こう言うと必ず「それでは有能な人が議会に集まらない」と反対される。しかし、裏金議員の顔を思い浮かべれば、選挙で選ばれる人=有能とはとてもいえないことがわかるだろう。一方、くじ引きで選ばれる議員は政治の素人で普通の人かもしれないが、選挙が不要で金がかからないし、貴族政治にもならないという利点がある。世論と政治の乖離も起きにくい。少なくとも、無投票が常態化する地方議会はくじ引きにすべきだし、国会も定員の半数くらいはくじ引きにすべきであろう。

 冗談だろうって? いやいや、僕は大真面目である。実は政治学の分野でもちゃんと研究されている。詳しくは政治学者の吉田徹同志社大学教授が書いた『くじ引き民主主義』(光文社新書)を読んでほしい。

(『週刊金曜日』2024年1月12日号)

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