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ジャニーズ性加害問題で自殺者 
誹謗中傷はなぜ続く?

望月衣塑子・『東京新聞』記者|2023年12月8日3:51PM

恐れていたことが起きてしまった。旧ジャニーズ事務所(現SMILE-UP.)の創業者ジャニー喜多川氏による性加害問題で、被害を告白した元ジャニーズJr.の40代男性が10月、大阪府内の山中で亡くなっているのが見つかった。遺書があり、警察は自殺とみている。

社名の看板が外された旧ジャニーズ事務所。(撮影/編集部)

 男性は「性加害問題当事者の会」のメンバー。遺族の弁護士によると、男性は5月に事務所に被害を訴えた。男性がJr.に在籍していたことを確認した事務所は「担当者が折り返す」と伝えてきたが、その後、連絡はなかった。

「嘘をつくな」「金目当てだろう」。代わりに届いたのは誹謗中傷だった。勇気を出して声をあげても補償の方針は示されない。半面、ネット上でバッシングを受け続けたことで、焦燥感や悩みは深まっていった。男性は誹謗中傷への対策も求めたが、事務所は会見で「誹謗中傷をやめて」と呼びかけた↖だけで、具体的な措置はとらなかった。

 そればかりか、亡くなる4日前のプレスリリースでは「被害者でない可能性が高い方々が、虚偽の話をしているケースが複数あるとの情報に接している」と表明していた。これでは「〝被害者〟をかたる嘘つきがいる」と言っているに等しく、男性への攻撃を加速させたのは間違いない。男性は亡くなる直前、ネットの中傷対策を手がけるNPO「ビリオンビー」にも相談していたという。事務所は責任をどうとるのか。

 他の被害者も中傷を受けている。元Jr.の中村一也さんは「お金目当て」「売名」という中傷について埼玉県警に被害を相談。「Kis-My-Ft2」元メンバーの飯田恭平さんも被害届を出して受理された。

 なぜ、被害者への攻撃は続くのか。「ビリオンビー」の森山史海理事長によると「書き込む方は『正義感』でやっている人も多い」という。被害者を「嘘つきの悪者」と思い込み、攻撃する自分こそ正しい――。そんな認知の歪みが、誹謗中傷を生み続けているのだ。

 ネット上の人間に限らない。報道によると、新会社の社長に就任する福田淳氏は、事務所社員を前に「加害者でもない皆さんを毎日痛めつけている空気から守りたい」と挨拶したという。自分たちを「被害者」と思っているとは。しかも、挨拶は男性が亡くなった後だという。即刻、退場願いたい。

 2020年の女子プロレスラーの自死が社会問題となり、総務省の有識者会議は11月、ネットでの誹謗中傷対策に関する報告書の骨子案を了承した。今後は中傷の削除手続きが早まるとの期待もある。一方で、削除は運営事業者の自主対応に委ねられているため、海外の事業者がどこまで被害者の保護に取り組むのかは不透明だ。

 そもそも認知がズレた人の発信が続けば、いくら削除しても中傷は次々と発生する。かつて「女性はいくらでも嘘をつく」と発言した杉田水脈衆院議員は、アイヌ民族や在日コリアンへの差別的な投稿でも人権侵犯を認定されたが、団体への謝罪は拒否、自身の言動を正当化した。いまや新たな誹謗中傷を引き起こしている。即刻、議員辞職するべきだ。

 そういえば。岸田文雄首相は過去最低となった内閣支持率について「何も悪いことをしていないのに」と首をかしげたとか。閣議決定乱発という「加害」を忘れたのか。こちらも即刻、退陣願いたい。

(『週刊金曜日』2023年12月8日号)

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