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大阪市の樹木大量伐採計画に市民が反対署名 
「コモンをまもろう!」

平野次郎・フリーライター|2023年11月20日11:45AM

 大阪市は「公園樹・街路樹の安全対策事業」として市内で計1万9000本の樹木(高木)を伐採して撤去する計画を進めている。これに対して市民団体「大阪市の街路樹撤去を考える会」(以下「考える会」)が樹木医に伐採対象の樹木を診断してもらったところ、安全・安心に支障がなく伐採する必要性がない樹木も含まれていることがわかった。同会は事業の見直しを求めるオンライン署名を実施しており、11月末には横山英幸市長に提出する予定。

撤去の必要がないのに撤去対象になったケヤキの前で伐採反対を訴える渡辺美里さんと(左)と谷卓生さん。(撮影/平野次郎)

 大阪市緑化課によると、市は1964年の「緑化百年宣言」を機に公園樹や街路樹の植樹を進め、市内の公園樹は約28万本、街路樹は約15万本に(中・高木、2018年度)。だが、以来半世紀以上を経て樹木が大木化したり樹勢が衰えたりした結果、通行や視認の妨げになるなど安全に支障をきたすおそれが出てきたとして、市は18年度から「公園樹・街路樹の安全対策事業」に着手した。

 この安全対策事業では撤去理由として、公園樹については①健全度②樹種③植栽環境等、街路樹については①健全度②通行障害③視距阻害等、によって選定。公園樹は20~23年度に約7000本を、街路樹は18~24年度に約1万2000本を、総事業費約55億円をかけて撤去する計画だ。22年度までに公園樹の約5100本、街路樹の約1万400本を伐採し、低木に植え替えるなどした。

「考える会」が発足したのは、22年9月に渡辺美里さん(35歳)が自宅近くの街路樹のイチョウに貼られたビラを見たのがきっかけ。「道路標識の見通しの妨げになりやすいことから、撤去を予定しています」と、そこには書かれていた。元気そうなイチョウを撤去することに渡辺さんは疑問を感じたが、イチョウは約90本のうち22本が伐採された。会を立ち上げ、情報公開請求などで得た資料をネット上で発信し、市議会に陳情書を出すなどの運動を続けている。

「考える会」は今年9月、一般社団法人「地域緑花技術普及協会」の細野哲央代表理事(樹木医)に撤去対象の公園樹と街路樹の一部について鑑定を依頼した。その結果、3公園と1街路の樹木36本のうち、撤去理由が明確なのは6本で、そのほかは撤去理由が不明との鑑定だった。

安全な樹木も撤去対象

 ここではその一例として、扇町公園(同市北区)のケヤキを取り上げる。市の公式サイトでは撤去理由が「植栽場所」となっていたが、細野さんは「活力・樹形とも非常に良好」「安全・安心に支障をきたす事情は特に見当たらない」と評価。この鑑定が出た後の10月末、市は公式サイトで当該のケヤキの撤去理由を「健全度」と修正した。市がコンサルティング会社に委託のうえ樹木医が20年12月に同じケヤキを診断した結果では、大枝に樹皮欠損が多数あり枝の軽量化剪定が必要としているのに基づいているとみられる。だが、コンサルの判定でも7段階のうち2番目に軽度な「剪定または保存」とし、「撤去」が必要とはされていなかった。

 では、樹木医らが剪定すれば撤去の必要性がないとしているのに、なぜ大阪市は樹木を撤去しようとするのか。

 その背景には、市の公園樹・街路樹維持管理費の予算が抑制されていることがあるとみられる。ここ10年間の維持管理費予算は年間9億7000万円前後で推移しているが、作業の人件費高騰などで予算不足となり、剪定できる樹木の本数は12年度の約12万6000本から20年度は約6万2000本に半減しているからだ。

 大阪維新の会の市長の下、市民にとって必要な予算を削減する財政運営について、SNS上では維新の看板である「身を切る改革」になぞらえて、切る必要がない木まで切ってしまう「木を切る改革」と揶揄する批判がある。

 こうした批判についての筆者の質問に、市緑化課は「樹木に少しでも異常があれば、将来的なリスクも考えて市民の安全・安心を確保する立場から撤去するかどうか判断している」としか答えない。

(『週刊金曜日』2023年11月17日号)

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