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『産経新聞』が沖縄社説を連発も国の人権侵害は問わず

阿部岳・『沖縄タイムス』記者|2023年11月2日1:21PM

『産経新聞』が熱心に沖縄に言及している。9月上旬からの1カ月余りで、沖縄をテーマにした社説は6本もあった。ほぼ毎日2本掲載する形式とはいえ、東京拠点の新聞がこれだけ頻繁に取り上げるのは珍しい。

東京都千代田区大手町の産経新聞社。(撮影/伊田浩之)

 この間、辺野古新基地問題が大きく動いた。最高裁で敗訴した沖縄県が判決に従わず、国が重ねて県を訴える事態になった。『産経』社説は県を「言語道断である」「猛省を促したい」などと糾弾している。その主張を見てみよう。

 まずは、外交や安全保障が「国の専権事項」(9月16日付)であるという論理。大ざっぱにはそう言えても、その過程で人権が侵害されるなら話は違ってくる。外交や安保を含む国の仕事は人権を守るためにある。万が一国が守らないなら、自治体の出番になる。

 その一環として、玉城デニー知事は9月18日、スイス・ジュネーブの国連人権理事会で演説した。時間切れでできなかった別の演説の原稿には、基地による人権侵害の告発があった。『産経』社説はこれを取り上げ、「人権侵害と決めつけるのは常軌を逸している」(9月23日付)と論評した。

 別の日にも「県民を含む日本国民に安心を与えるのが自衛隊と在沖米軍の存在だ」(9月16日付)と主張している。現実がそうだったら、どんなに良いか。

 沖縄では日々、米軍や自衛隊が事件事故を起こしている。中国を狙うミサイルの配備が進み、逆に攻撃目標にされる恐れも高まっている。沖縄の負担と犠牲の上にあぐらをかく日本の新聞は「安心」かもしれないが、沖縄に人権侵害はない、安心せよ、と説教する態度は、厚顔無恥と呼ぶほかない。

『産経』社説は玉城氏の演説内容以前に、国連に行くこと自体が「国益を害する言動」(9月16日付)だとして反対している。あたかもDV夫が妻に「うちの恥をさらすな」と、問題を家庭内に押し込めようとするかのようだ。

『産経』社説を貫くのは、玉城氏が「敵」である中国を利しているとの思考だ。9月23日付では「自衛隊・米軍と県民を分断するような演説を喜ぶのは、対日攻撃の可能性を考える外国の政府と軍ではないか」と言い、見出しは「日本の知事の資格を疑う」と付けた。

 阿比留瑠比記者の署名コラム(9月21日付)はさらに踏み込み、ウェブ版の見出しは「玉城氏の危ない外患誘致」だった。刑法で外患誘致罪は死刑だと強調し、「玉城氏が中国側の工作にうかうかと乗せられて、間違っても初めての適用例とならないことを祈る」と結んだ。

 知事は権力者で、当然監視の対象になる。しかし外敵を招き入れる者として名指しし、死刑にまで言及するのは、暴力の煽動につながりかねない。国内の少数派である沖縄を代表する玉城氏の場合、ヘイトクライムの誘発すら懸念され、極めて危険だ。

 日本と沖縄の間に、分断は確かに存在する。政府の基地押しつけと人権侵害によって生じたものだ。中国がそれを利用しようとするのも間違いない。

 この現状で、『産経新聞』は政府を不問にし、沖縄に黙って耐え忍ぶことを要求している。権力を監視し人権を守るメディアの責務を忘れているだけではない。分断を、ますます深めることに加担している。

(『週刊金曜日』2023年10月20日号)

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